背後から現れた気配に、は特に警戒もせずに振り向いた。 「おっ…女子!? 女子が何故この場に!?」 この上田城を守る若き武将、真田 幸村が、を見るなり目を丸くしていた。 うーん…もしかして、武田の武士かしら? と、何も知らぬは幸村に、 「えーと…その、色々あって、この兵舎を建て直してたのよ。で、終わったけど、どうすりゃいいのか悩んでて」 と、至極簡潔に述べた。 事情を知る佐助や、元凶の政宗がこの場にいない事には、おいそれと素性を明かす必要はないだろう。下手に誤解されてはかなわない。 「ぬぅ…そ、そうでござったか…」 口調では納得したようであるものの、未だにそわそわした様子の幸村に、は理由が分からず対応に困る。 幸村の態度は、彼の度が過ぎる程の初さ故のものなのであるが、初対面のがそれを知るはずもない。 その時だった。 「旦那ー」と、間延びした声と共に、佐助が戻ってきたのだ。 「まーったく…。人に使い走りさせといて、どっかに行かないでちょうだいよ」 空から地に降り立ち、はぁ…と、溜め息を吐くその姿に、は己と重ねて、内心で佐助に同情する。 何処の忍も苦労してるんだね、と。 「あ、そうそう。小屋の建て直しが終わったんだけど、伊達さんは?」 親子のように幸村とやり取りをする佐助にそう訊けば。 「え? 竜の旦那だったら、真田の旦那と手合わせして、また兵舎を壊して、奥州に帰ったよ?」 「………なんですと?」 サラリとのたまわれた言葉に一瞬思考が停止し、その意味を悟った時、は政宗に怒りを覚えたのだった。 「伊達さーん。だーてーさーん…」 夕刻。酷く疲れきった様子のが、地を這うような低い声を出しながら姿を現した。ちなみに、今の姿は、最初に着ていた忍装束姿だ。 「Ha! 遅かったな」 「『遅かったな』じゃないわよ…仕事増やしてとんずらこきやがってこの眼帯が」 余程キレているのか、口調と目付きが悪くなっている。 しかし、今の彼女のような存在が周囲にいる政宗は別段怯む様子もなく、腰を下ろすよう進めた。 「オイオイ、そんなに眉間に皺寄せんなよ。Your sweet face is marred by that frown.(可愛い顔が台無しだぜ)」 「日本語話せ、異国気触れが。つか、誰のせいだと思ってるんだ」 「ホラよ。約束の野菜だ」 「ん? ………おぉ…!」 正面に色とりどりの野菜が入った篭を置かれ、は感嘆の息を洩らした。 身が引き締まった白菜。瑞々しいきゅうり。形がよく、大きい茄子。などなど、いずれも立派に育った野菜類だった。 なるほど。こりゃあ、北条のじーちゃんも欲しがる訳だ。 そう、野菜の出来に納得し、食い入るように眺めていると、政宗が再び声をかけてきた。 更に右手を差し出すように言われ、は不審に思いつつも素直に差し出す。 すると、ドサリ、と重みのある小袋が置かれた。 「こ…この重みは…!」 瞬時に袋の中身を悟り、驚愕するに、政宗は余裕のある笑顔で、 「俺からの駄賃だ。とっときな」 「え…こんなに!?」 「なんだ、いらねェのか?」 「いえ、ありがたくいただきます。」 「ていうかふんだくろうと思ってた額よりも多くて驚きました」、という言葉を飲み込み、は清々しいまでの即答をした。しかも、先刻までの不機嫌も何処へ行ったのか、というぐらいに笑顔になっている。 「それじゃあ、伊達印の野菜とお駄賃、確かにいただきました!」 は野菜の篭を持って立ち、襖を開けた。 風が部屋の中で渦巻く。 「また縁があったら、よろしく!」 言い終えると、風は一際強くなり、その刹那、の姿は何処にも見当たらなかった。 「『縁があったら』…か」 開かれた襖の先にある紅の空を見つめ、蒼き竜はそう呟くのみだった。 任務を無事に終え、ついでに北条で野菜鍋を馳走になったは、闇夜の中を疾走していた。 この戦国乱世で決して表舞台に立たないが、それでも彼女は、明日も、そのまた明日も、こうして走り続けるのだ。……多分。 ―終。― オチって何でしょうね。(知るか) というか、伊達さんの英語とか分かんないです。英和辞典と和英辞典をフル活用しても分かんねえよコノヤロォォォ!(何キレてんの) 野菜編…まあ、この忍シリーズのプロローグみたいな感じで書いてたのですが、気付いたら長くなってました。 最初は北条のじーちゃんと政宗様しか出さんつもりだったのに、佐助や幸村までだしちゃってて、自分で書いて先が見えなくなりました。(オイィィィ!) けど、長編のトリップ夢主とはまた違った感じを分かってもらえたら、嬉しいです。 この忍シリーズ、次からは1話完結形式にしていけたらいいな、と思います。(作文んん!?) それでは〜。 2007.05.03 柾希 |