時は21世紀、場所は日本。物が溢れ、それなりに豊かな生活が送れている時代。
 世界情勢はこの話には関係ないから、無視するとして。
 とにかく、衣食住がちゃーんと成立している日常のはずなんだけど。


ぐーきゅるるるるる…


「…は……腹減った…」

 あたし── は今、猛烈に空腹で倒れそうだった。しかもすごく山奥で。






腹ペコ娘と傾奇者
〜ベタにタイムスリップってヤツですか?〜






 そもそも何故一見普通の女子高生が山の中にいるのか、というツッコミがあるだろうが、それはあたしにもまったく分からん。
 家への近道として、馴染み深い藪の中に入っただけであって、間違っても自ら進んで山に入った訳ではない。そうだとしたら、よっぽどトチ狂ったヤツか、自殺志願者ぐらいだろう。
 ただ一つ分かるのは、あたしがいつの間にか迷子になって、餓死の危機に晒され始めているということぐらいだ。

「ああ…腹減った…。ていうか腹減った…」

 腹が減るあまり、もはや考えることを放棄したくなる。
 むしろ「腹減った」としか言えないし、考えられない。

「もうダメだ……」

 空腹から身体が崩れ落ちそうになった刹那、何かあったかいものがあたしの身体を支えた。

「あんた、大丈夫か?」

 誰……?

「あの……」
「うん?」
「腹…減った……」
「………は?」


ぐおぉぉぉぉ……


 先刻よりも盛大に鳴く腹の虫に、その人は目を点にしたのだった……。












「ご馳走さまでしたっ! 生き返りましたっ!」

 用意された食事を綺麗にたいらげ、茶碗と箸を置いて、あたしは満面の笑みを浮かべて言った。

「うむ! まつの飯は天下一だからな!」
「まあ、犬千代様ったら…」

 …向かいに座っていた、やけに露出した――ていうかほぼ裸族なお兄さんと桜色の着物を着たお姉さんはなんだか二人の世界に入ってしまったようである。
 すると、あたしの隣で胡座をかいていた体格の良いお兄さん──山の中で出会った人──が、しげしげとあたしを見つめながら口を開いた。

「それにしても、アンタ、変わった着物を着てんだな。荷物も見たことないようなもんばっかだし」
「そう、ですか?」

 別に普通の制服だと思うけどなぁ。荷物だって、教科書だの携帯電話だのは女子高生としては持ってて当然じゃないのかな。
 ていうか、あたしからすればお兄さん達の格好の方が変わってると思うよ?
 ちなみにお兄さんの格好はというと、虎みたいな柄のモノを身に着け、毛皮っぽい黄色い衣を左肩に羽織っている。加えて、男にしては長い髪を高い位置で結わえ、鳥の羽根らしき飾りが付いていた。
 まるで歌舞伎役者のような…否、それ以上に派手な格好だ。
 少なくとも、現代日本人の格好とは言えない。まあ、それは正面のラブラブな二人もなんだけど。

「なあなあ、あんた何て言う名前なんだ? あ、俺は前田 慶次っていうんだ」
「え? あの、です…よ」
…ね。アンタ、一人旅でもしてたのかい?」

 慶次さんの素っ頓狂な発言に思わず目を丸くする。
 何処をどう見ればそう見えるんだこの人ッ!

「まさか。学校から帰ってる途中で迷子になってたんです」

 自分で言っててアホらしいが、事実である。故に呆れた反応をされると思っていたが──

「『学校』ってなんなんだ?」
「…………ハイ?」

 ものすごーく真面目に訊ねられ、あたしの方が逆に間抜けた声を出した。


―続。―


元は携帯サイトの隠しとして書いたシロモノ。
トリップ先が前田家なのは私の趣味です。てか、異世界トリップ自体が趣味全開ですけどね!(オイ)
スローペースですが、頑張って書きますぞ〜!

2007.02.22 柾希