拝啓、父さん母さんじーちゃんばーちゃん。
あたしは今、どうやら戦国時代にタイムスリップという、ベタな漫画の展開みたいな状態になってるみたいです。
ちょっと近道のつもりで藪の中に入ったのに、むしろ大規模な遠回りです。
なので、今日中には帰れないかもしれません…。
あ、今夜はあのドラマ最終回だから、録画してくれるとすごく嬉しいです。






おいでませ前田家
〜「急がば回れ」って本当だったよ〜






「えーっと…あの有名な織田 信長に、甲斐の武田 信玄、越後の上杉 謙信、それに奥州の伊達 政宗…そんな人達が天下の為に戦ってる…んだね?」

 なんちゅうか、戦国時代の有名人のオンパレードじゃないの。
 慶次さん達の話を聞き終えたあたしは、思わずそう息を洩らす。話を聞く限り、どうやらあたしは戦国時代に来てしまったらしい。

 もちろん、あたしのことも話した。ただし、「未来から来た」なーんて言っても、信じてもらえなさそうだから、「南蛮から来た」とか言って適当にごまかしたが。

 ちなみにラブラブ夫婦の正体は、前田 利家とその妻まつである。大河ドラマにもなったあの夫婦。
 大河ドラマ見てなかったけど。
 ていうか、あたし世界史はともかく、日本史はあまり勉強してないんだよね。まだ高校の授業じゃあ平安時代あたりだし。
 だから、戦国時代は特に有名所な織田・豊臣・徳川あたりしか良く知らない。今言った、上杉 謙信や武田 信玄、それと伊達 政宗は名前しか知らなかったりする。
 そういや、明日日本史あったな。あの先生の授業眠くなんだよなー…。

「ああ、そういえば」
「?」

 何かを思い出したかのように、ポンと手を叩く利家さん。

「最近になって、豊臣軍が『覇王』と名乗り、台頭してきたんだった」


ずしゃああぁぁッ!!


殿!? どうなされました?」
「い、いえ……ちょっと…。てか、『豊臣』って、まさか豊臣 秀吉…?」
「ええ、そうでござりまする」


ずしゃああぁぁッ!!


「オイオイ、大丈夫かあんた!?」

 再度ズッコけたあたしに皆さん驚いた様子だったが、それを気にする余裕はない。
 いやだって! 歴史じゃあ秀吉は信長に仕えてたんじゃなかったの!? しかも自分で『覇王』て!
 いくらあたしが戦国時代に疎いとは言え、そこまでの知識ぐらいはあるよ!?
 えっ、何ここ本当に戦国時代?
 いや、それ言っちゃうと、慶次さんの派手な格好とか、利家さんの戦国武将とは思えん裸族スタイルもツッコミ所あるけどっ! 現代ならもれなく逮捕されるよ?

「ところで…お主はこの後どうするつもりなんだ?」
「あ。」

 ズッコケから起き上がった所を、真面目な顔の利家さんに訊かれ、ハッとする。
 そうだ。ここが戦国時代なら、あたしの帰る場所はないんだ。元の時代への帰り方もよく分かんないしな。
 まあ、イザとなれば、山で暮らすこともできるかもしんないけど。ウチのじーちゃんに散々修行をさせられて、何度か三途の川を見たぐらいだし、何とかなるでしょ。

「んー……」

 あたしはポリポリと頬を掻きながら、

「御飯のお礼に何か仕事をお手伝いして、それからあちこちを行こうかと」
「まあ、お礼など必要ありませぬ。困っている者を助けるのは当然のことですよ」
「でも、こんなにおいしい御飯をいただいたのに…」

 そう言葉を続けるあたしに、「ストップ」と言わんばかりに、慶次さんが右の手の平を向けた。

「慶次さん?」
「なあ、もしさえよかったら、ここに住まねえか?」
「ハイ?」

 いきなりの提案に目が点になるあたしに、慶次さんはニィッと笑う。

「女の一人旅は危ないし、恩返しだったら、飯炊きとかで返せるだろ?」
「いやあの、気持ちは嬉しいですけど、こんな素姓も知れない人間でもいいわけ?」

 確かにこのままここで働くとしたら、元の世界に帰れるか分からない状況で、少なくとも衣食住は確実に保証される。あたしとしては好都合だが、前田夫妻は迷惑じゃな…

「なあに、某はを信じるぞ。なあ、まつ!」
「ええ、もちろんでござりまする!」
「えええッ!!?」

 ちょっと! ちょっとちょっと! 一国の主がそんな簡単に信用していいのかッ!? コッチが逆に驚くわッ!

「まつの飯を美味いと言う者に悪い者はおらん!」
「そんな理由ッ!!?」

 え…ちょっと待て。ここ戦国時代だよねぇ!? いいんすか利家さん! そんな理由でこんな馬の骨おいて!
 いきなりな展開についていけずに呆然となっていると、不意に頭の上に大きな手が置かれる。

「ほら、利もまつ姉ちゃんもこう言ってんだから遠慮しなさんな」

 置いた手でわしわしとあたしの頭を撫で、慶次さんが微笑む。それが心地良くて、あたしも微笑み、前田家の皆さんに返事をした。

「ありがとうございます!」





 晴れて衣食住か確定し、戦国時代に来て最初の夜。
 あたしは慶次さんによって、前田家の屋敷を案内されていた。

「ここがの寝床だよ」
「えっ…!」

 スッと開いた襖の先は広い和室! あたしの部屋(6畳半)なんかすっぽり入るんじゃないか、というぐらいで、何度も目をパチパチさせるあたし。

「もしかして気に入らなかったか?」
「ううん! その逆! こんな広い部屋でいいんですか!?」
「当たり前だろ? 利もまつ姉ちゃんも、あんたのことは気に入ったようだし。もちろん俺もね」

 そうは言うがな慶次さん。それでもこれくらいの広さの部屋、あたしにはもったいないでしょうに。

「いや、本当にありがとうございます、慶次さん」
「あー…俺のことは慶次でいいよ。敬語も堅苦しいし」
「えっでも年上を呼び捨てで呼ぶ度胸ないです。あたし」
「けど、家族みたいなもんだし、敬語じゃ他人行儀だろ?」

 えっもう家族認定? いや、すごく嬉しいけど。
 うーん…なんかこのままだとテコでも動かなそうだなこの人。けど、呼び捨てもちょっと無礼だし…。
 散々唸りながらあたしが出した結論は。

「えと、じゃあ『兄ちゃん』って呼んでいいです…いいかな?」
「ん〜…まあ、それでも構わないよ。あ、利とまつ姉ちゃんにも敬語はいらねえから」
「あ、うん。それじゃあお休みなさい」
「ああ、お休み」

 にこりと爽やか笑顔で去る慶次さん――じゃなかった、兄ちゃんの背中を見送り、あたしは一先ず腰を下ろした。
 さて、どうなるか分からないけど、なるようになる……かな?

―続。―



日本史に疎い夢主! そして妙なところで礼儀正しい(笑)
史実に反してる可能性は高いですが、「まあ、BASARAだから」で済ましてくれるとありがたいです。あ、誤字脱字のツッコミは大歓迎です♪
今の所前田家だけですが、伊達さんとか武田軍の人達とか、織田の人達も登場させたいなぁ…(じゃあ書けよ)

2007.02.27 柾希