前田領がある加賀は、あたしの時代で言うと、石川県は金沢の辺りだ(日本史の教科書に載ってた)。
 つまりは日本の真ん中らへん。

「東か西か、それとも南の方か…」

 まず何処に行こうか。ふむぅ…と小さく唸りながら、あたしは山奥で行き先を考えるのであった。






最初が肝心…のはず
〜女の子一人で山道は危険〜






 世は戦国時代。現代っ子のあたしは一人、諸国行脚の旅に出たところだ。
 個人的には、織田 信長とか、豊臣 秀吉をまず見てみたいけど……この世界って、あたしが知ってる歴史とだいぶ違うみたいだし、何処にいるか分かんないのよね。
 うーん、こんな事なら日本史の教科書も持ってくればよかったなぁ…。そうすりゃあ、ちょっとは指針になっただろうし。
 そう軽く悔やんでると、遠くの茂みで音が聞こえてきた。

 ───山の動物? にしてはやけに音がやかましい…。
 次第に音が大きくなり、そして!

ガザザッ!

「あぁ……これはこれは…」

 音と共に茂みから現れたのは…一人の奇妙な美青年だった。銀色の長髪に、病的なまでに白い肌。傍から見ると、「お兄さん、家で寝てなよ」と言いたくなるぐらいだ。
 しかし、それだけならまだいい。いや、病人みたいなのが山ウロついてる時点でよくないかもしれんが、まあ置いといて。
 そのお兄さんは、トゲ付の肩当て装備のヴィジュアル系な格好に、何故か大きな鎌を二つ持っていたのだ。
 断言しよう。  

この人アブない人だ!!

 人の顔見るなり「クックックッ……」とか、喉を鳴らして笑うし! 怖えよ!

「フフ……お嬢さん、名前は?」
「…人に名前を聞く時は、自分から名乗るのが礼儀じゃないの?」

 こんな怪しさ100%な人間に名前を教えるのに抵抗を覚え、厳しい口調でそう返す。

「おや…これは手厳しい…。ククク……!」

 すみません。いちいち笑うの止めて下さい。

「私は明智 光秀と申します…クク」
「嘘つけぇぇぇぇぇッ!! どんだけ病的な光秀なんだよ!! つーか、ありえねぇぇぇぇっ!!!」

 自称「明智 光秀」の青年に、思わずツッコミの叫びをかますあたし。
 いやだって! 明らかにこの人ただのアブない人じゃん! 『明智 光秀』って言ったら、信長のやり方に疑問を持って謀反を起こした、みたいな人じゃん!
 つーか、百歩譲ってこの人が明智 光秀だとしても、『本能寺の変』を「退屈だから信長様でも襲っちゃえー☆」とか、そんな軽いノリで起こしそうじゃんかぁぁぁぁッ!!

「病的……ひどいですねぇ……クク…ハーハハハッ!!」

 帰りたい! 今すぐ帰りたい! できれば昨日の夜にタイムマシンで帰りたい!
 そんなあたしの胸中を知ってか知らずか、なおも高笑いを続ける明智さん。まったくもって、高笑いの意味が分からない。いや待て。あんな、ちょっと…いやかなり変わった人だけど、話せばきっと理解で……き……。


 …………。


 ゴメン、やっぱ無理。
 だって!! なんかあの人から禍々しいオーラまで見えるんだもん!
 ていうか、これ以上この人に関わったら、あたしの精神衛生上よろしくないよね!
 これ以上彼に関わるのが心底嫌になったあたしが、あさっての方向に顔を向けた刹那。

「おっと、手が…」

ヒュンッ!

「うおっ! 危なっ!!」

 何の前触れもなく、振り下ろされた鎌を寸前でかわす。
 ちょっ…本当何この人! 「おや、残念」じゃねえよ!
 命の危険を感じ、あたしはゆっくりと、明智さんから離れるように、一歩一歩後退る。

「おや、私が怖いですか…?」

 ええ。とっても。

「フフ……そう…貴女の怯えた表情…早く斬りつけたい…」
「何物騒な事言ってんの、アンタ!?」

 とてつもなく恐ろしい事をのたまいながら、明智さんもじわじわとあたしに詰め寄る。その瞳は最早正気じゃなかった。
 ―――なら! 変態は此処で撲滅するっ!
 脇に差していた木刀を抜いて構え、じりじりと間合いを取ると。明智さんは更に楽しそうに目を細める。
 ―――その時だった!

「うおおあぁぁぁぁッ!!」

ドドドドドドッ!!

 遠くから、轟音と何者かの叫び声らしきものが聞こえてき、それは段々大きくなり、そして!

「うおおぉぉぉッッ!! みぃぃなぁぁぎぃぃるぅぅぁぁぁぁッッ!!!」

ドゴォッ!

 やかまし過ぎる叫び声と共に、紅い何かが眼前を横切った。速過ぎて目に止まらなかったのだ。
 明智さんはと言うと、ちょうどその紅いのの進路上にいたようで、ものっそい空高くまで飛んでいた。まあ、はねられたっつうか。(先刻の鈍い音は、明智さんがはねられた音である)
 あー…、空中からまた「ヒャハハハハ」とか、嫌な高笑いが聞こえてくるし。つか、まさか戦国時代で、「人って、あんなに高く飛べるんだなぁ…」って悟れるとは思わなかったよ。



 かくて。明智さんが復活しない内にこれ幸いと、あたしはとっとと進路を決め、再び歩みを始めたのだった…。



─続。─



明智さん登場の回…でしたけど、書くの難しいね、この人ッ!!
一癖も二癖もあるようなBASARAメンバーの中でも、特に癖がある人の一人ですよね! ううう…まだまだ精進が足りませんでした…。しかも、名前変換がないし…(ダメダメじゃん)
話変わって、今回ラストに何処ぞの虎若子(バレバレだ!)が登場しましたけど、この後どう絡ませようか、って感じですよ。
まあ、それはさておき!
次回、夢主の行く先は西か東か!(そこ!?) そして、その先で誰と出会うのか…!
それでは〜。

2007.04.07 柾希
(2006.11.15 制作)