前田領を発ってすぐに出会った変態を後に、あたしは南に進んでいた。
 えっ、なんで南かって?
 うーん、なんつーか…まあ、気分と直感?






稲葉山タケノコ注意報!
〜気にしたら負けなのだろうか〜






 旅立ってから大体丸一日程。途中、宿場町に立寄りつつ、あたしは山道を歩いていた。
 正直言うと、今あたしが何処にいるのか、正確には分からない。何せ行く当てのない旅であるし、地図もないのだ。故に、太陽を頼りに移動しているのだが、どうも先程から同じような景色ばかりである。
 しかも、空はいかにも雨が降りそうなぐらいどんよりしてるわ、更にはなんだか霧だかモヤが出て来て、視界が悪くなっている。

「………ん?」

 霧の中、うっすらと門のような物が見えてくる。近付くにつれ、それの輪郭がハッキリしてきた。

「これは……何かのバリケード?」

 丸太で組み立てられたそれをよじ登っていくと、その先は今までの山道と違い、道が随分拓けていた。
 更に進もうとしたら、足が何かにひっかかり――

カランカランッ!

「え!?」

 突如頭上から鳴子の音がした。静か過ぎるこの空間で、嫌なくらいに響き渡る。

「者共、であえ! であえ!! 敵であるぞ!」
「えっ…ちょっ待っ…」

 うっわ、此処ってひょっとして、どっかの武将さんの敷地だった訳?
 そうこうしてる内に、足軽っぽい人達やら何やらがうじゃうじゃと現れ、どうやら簡単に逃げられそうにない。

「……えーと」

 うむむ…あからさまに皆、不審者を見る目ぇしてるし。
 そんな足軽集団に、あたしは愛想笑いを浮かべながら、

「あのー。ちょいと道に迷っただけで、怪しい者じゃないんですけ」
「女子一人でこのような場所を彷徨ってる時点怪しいわっ!」
「貴様ぁ…何処の者だ!!」

 弁論の余地ナシっすか。こっちが言い終える前に言い返しやがった。
 この調子だと、おそらくこれ以上何を言おうと、彼らは聞く耳を持たないだろう。
 しかたないなぁ…。
 あたしは腰の木刀を抜いて構え、

「そっちがその気なら、こっちだって強行突破させてもらうよ!」

 言って、正面にいた人達に一撃を与えつつ、そのままここから走り出す。

「オイ! 逃げたぞ!」
「よし、皆の者、アレを使うぞ!」

 という声がした直後。

ズガガガガガッ!

 激しい轟音と共に、あろうことか、あたしの正面に小さな城がタケノコの如く次々と地面から出てきたのだ!

「何これぇぇぇぇぇッ!!? つーか、どうやって造ったのぉぉッ!?」


 と、思わずツッコミの台詞を叫んでしまうのは、仕方ないことだと思う。
 更に、それらの城から、武将達がわらわらと登場する。その内の一人が胸を張りながら、

「どうだ! これぞ、半兵衛様の考えた一夜城ぞ!」
「いやいやいや! むしろコレ一瞬城じゃん! 一夜も経ってないじゃん!」

 「そもそも一夜城ってこんなんじゃないよね!」とか、「出て来た武将さん達はどうやってあの城でスタンバってたんだよ!?」とか、「つーかどんな技術力!?」とか、あまりにツッコミどころが多過ぎて、最早そんな気も失せてくる。
 という訳で、ツッコミを諦めたあたしはここを突破すべく、またこんなもんを作った総大将に物申すべく、再び木刀を構えたのだった。






「はぁ…はぁ…さ…流石に…しんどい…かも…」

 迫り来る敵は片っ端から薙ぎ倒し、この山を駆け巡り、あたしは息も絶え絶えになりながら、ようやく連中の本陣であろう場所に辿り着いた。
 随分と立派で大きい扉には、何処かの家紋が刻まれている。両手でそれを押し、扉を開くと―――

ヒュンッ!

「おわっ!?」

 刹那。真正面から、あたし目掛けて飛んできた何かを、木刀で慌てて切り払う。
 弾かれた『それ』は縮みながら空を斬り、あたしを襲ったであろう人間まで縮んでいく。

「ふぅん…一人でここまで来ただけはあるみたいだね」
「な……ッ!?」

 縮みきって一振の剣になった『それ』を手で弄びながら言う青年に、あたしは息を荒げながら、更に言葉を失った。
 女のあたしよりもほっそりとした身体付きと雪のように白い肌。また、非常に眉目秀麗でゆるやかにウェーブがかった銀髪がその顔立ちにしっくりしている。
 しかし、あたしが驚いたポイントはそこではない。
 彼は左肩に裾の短い紫色のマントを纏い、更にパピヨンみたいなバッテンマスクをつけていたのだ!
 先刻の一夜城(もどき)ぐらいに、「お前は中世の騎士か!」とか、「最早それ戦国武将の格好じゃないよね!」というように、ツッコミどころが満載である。
 むしろ、この人のこんな格好を見ると、傾奇者な慶次兄ちゃんとか、裸族同然の利さんとか、ヴィジュアル系な明智さんとか、「割と戦国武将の格好だよね」とさえ思えてくる。

「一人でここに来るなんて、随分無謀だね」
「………」
「君は一体何者なんだい?」
「…………」
「答えないつもりかい? それなら、力づくでも――」
「だあぁぁぁッッ!! 先刻から息整えてたでしょーがっ! ゼェゼェ言ってるのに、答えられる訳ないでしょがあぁぁぁぁッッ!!」

 山登りで疲れてるあたしに対し、勝手に話を進める青年に、力いっぱい怒鳴る。

「そもそも! あたしは来たくてこの山に来た訳じゃないし、あんたらが何処の誰だろーがあたしには関係ないっ!」
「これだけ豊臣軍に害を加えて『無関係』か。随分と勝手な事を言うね」
「そっちが勝手に勘違いして襲いかかったんじゃない! ……って、え、豊臣?」

 青年の台詞をスルーしかけ、聞こえてきた単語を聞き返すと。

「…まさか、本当に知らなかったのかい?」

 呆れとも、侮蔑とも言える声のトーンで、青年はそう呟く。

「ここは稲葉山城。そして、僕の名は竹中 半兵衛。――豊臣の者だ」

 豊臣って……やっぱりもしかして、豊臣 秀吉の事!?
 目を見開くあたしに、竹中 半兵衛と名乗る青年は、言って剣の切っ先を向ける。

「さあ、君は何者なんだい?」
「あたしは… よ。剣の修行のために諸国行脚中…ってところ」
君、か…」

 彼はフム…と少しだけ考えた様子で俯き、次に顔を上げるやいなや―――

君、君も豊臣軍に入らないかい?」
「…………は?」

 予想外の勧誘に、あたしは思わず間抜けな声を出すのだった。

―続。―



はい! てな訳で第5話でございます!
今回、携帯版では京都に行ってた夢主ですが、なんとなく稲葉山城に行かせてしまいました。そしたら、なんかはんべに誘われちゃいましたね。あと、今回も名前変換が最後しかないというダメっぷり。基本が一人称なので、変換がある程度少なくなるのはしょうがな…くはないですね。ごめんなさい。
ちなみに、一夜城のツッコミは、私が初めて見た時に、画面の前で思ったことです。
いや、今でこそスルーできますけど、最初はとにかくびびりましたね! あれは!

さてさて次回! 半兵衛の勧誘にどうする夢主! そしてこのペースで果たして武田とか奥州とか瀬戸内とかに会えるのか私!(お前かよ)
それでは〜。

2007.04.21 柾希