なんとなくで南に進んだら、稲葉山って所で仮面舞踏会にいそうな人と出会ったあたし、
 そしたらその人に、「豊臣軍に来ないかい?」みたいな事を言われた。
 豊臣って、やっぱあの『秀吉』よね? ってか、なんでいきなり勧誘? 陣地荒らされて、怒ってたんじゃなかったの?






逃げろ、疾風のように
〜甘く柔らかになんて言ってられない〜






「豊臣に入れ、って…冗談でしょ?」
「僕はつまらない冗談は言わないよ?」

 疑心暗鬼になりながらで言った台詞はサラリと返される。更に半兵衛さんは優雅な笑みを浮かべながら、

「たった一人でここまで来たその腕前…こんなところでくすぶらせるのは勿体ないよ。豊臣軍に入れば、もっと有意義に力を使える」

 なるほど。とどのつまり、天下統一か何かの為の戦力として、って事か。
 しかし、あたしとしては別に戦に出る為に戦ってる訳じゃないし、それにあたしは前田家にお世話になってる身だ。それなのに、他ん所に協力するのはちょいと気が引ける。

「ちなみに断る…って言ったら?」
「力づくで従わせるまでだよ。君」剣で手を叩きながら、言う半兵衛さん。

 その様子がその手の女王様に見えてしまった事は秘密だ。まあ、そんな事言ってる場合じゃないが。

「さあ、早く決めてくれないか。豊臣に従うか、痛い目を見るか
「いやあの。あなたが言うと違う意味で洒落にならん気がするのですが。

 ていうか、あたしにはそんなシュミはない。
 それはさておき。竹中さんの口調は相変わらず優雅だが、声に怒気が含まれている。どうやら時間が惜しいらしい。
 あたしは手にしていた木刀を腰に戻し、代わりにトンファーを手にして、構えた。

「……それが君の答えと言う訳か…」
「悪いけど、ケンカは好きだが、戦は嫌いなんだよね。それに、一応前田家にお世話になってる身だし…」
「前田家? へぇ…君は前田の者か」

 あ…アレ? なんか不穏な空気?

ビシィッ!

「うおぉぉッ!? 危なッッ!」

 突然のムチのような攻撃を、咄嗟の横ステップで回避するあたし。

「ちょ…いきなり何すんのよ! 今ビビった! すごいビビった!! つーか、怖い! 顔怖くなってる!!」

 心臓をバクバクさせながら、恐怖故に早口で捲し立てると。

「前田 慶次を知っているね?」

 思いもよらない問い掛けに、あたしは呆気に取られながら相槌を打つ。

「え? いやまあ、知ってるっちゃあ、知ってるけど…」
「彼には先日世話になったものでね。おかげで、豊臣軍の被害が大きくなったよ」

 オブラートに包んでるようで、かなり直球ストライクな発言になってる辺り、慶次兄ちゃんへの恨み具合が窺える。

「そう…おかげで大阪城が半壊するわ、豊臣の財宝を持っていかれるわ…!」
「えーっと……」

 その時の記憶が浮かんできたのか、肩やら拳やらを震わせている半兵衛さん。
 あ、なんかすっごいヤな予感がしてきた。

「という訳で君」
「は、はい」
君に落とし前をつけてもらうよ
「なんでッ!?」

 あまりに唐突かつ理不尽な発言に、即座に反応するあたし。

「決まってるだろう? 本人は所在が知れず…今は財政に余裕がないから、前田軍に攻め込みたくはない…。
それなら、彼ら以外に慶次君に近しい存在の君に取ってもらうのが妥当だろう?」
「『それなら』じゃないィィィィッ! ていうか、それ逆恨みだろがぁぁぁぁッ!!!」
「うるさいね…少し黙ってくれないか」
「これが黙ってられるかあぁぁッ!!」


 そして、全力ツッコミで再び酸欠になるあたし。


「…そこまで息を切らせるまで叫ぶなんて、理解に苦しむね」

 あたしは、あなたのそのファッションセンスの方が理解できません。じゃなくて!

「と……とにかく! あんたらが慶次兄ちゃんと何あったのかは知らないけど、あたしに落とし前ってのは、お門違いでしょが!
だったら、忍者なり何なり使って、本人探しなさいよ! あたしは無関係なんだから!」

 と、威勢良く言うが、しかし彼は「やれやれ」と言わんばかりの表情で、

「ここに来るまでに豊臣軍に被害をもたらせて、それでも『無関係』かい?」
「う"っ!?」
「たとえ慶次君の事がなくとも、君には落とし前をつけてもらいたいね。君」
「ううう……っ!」

 詭弁もいい所だ、と言いたいが、実際に張り倒した手前、グゥの音が出ない。
 こ…このままではあの女王様にいい様にシメられる…っ! それは嫌だ!

「だ…だったら、強行突破させてもらうまで!」

 半ば自棄になりつつ、そう高らかに宣言し、大地を蹴り勢いよく駆け出した!
 すると、刃が空を斬りながらあたしの眼前へと迫る。それを紙一重でかわし――

「――甘いよ」

 避けたはずの剣は意志を持っているかの如く、今度は背後から襲ってくる!

「…ッ!?」

 わずかに痛みが走り、あたしはそこに立ち止まる。
 避けきれずに左肩を掠めただけ、それだけなのに、意識をすればそこだけ熱くなっていくような錯覚を覚えた。
 刃は主の元へ、在るべき姿に戻る。

「さあ、これでもまだ、君は抵抗する気かい?」
「あ…当たり前でしょ! ちょっぴり痛いけど、これくらい!」

 言って、あたしはトンファーを構え直す。
 全力で戦えば、この人を打ち負かせるかもしれんが、此処は敵の陣地。力を使い果たして動けなくなるなんて、阿呆らし過ぎる。それならどうするか。
 視線だけを動かして、周囲を見回す。城壁に囲まれているため、脱出ルートは後ろの門だけ。だが後ろから逃げようにも、恐らくそれは予測されているだろう。
 ……なら、覚悟を決めて、行くしかない!
 木々がざわめく音、鳴く鳥の声に包まれたこの場所で、あたし達はただ得物を構えた。


 ――先に動いたのはあたしだった。


 今度は正面から半兵衛さんの元へ駆けていくと、その特徴的な剣の乱舞が、四方八方から襲いかかってきた!

「はあぁぁぁッ!」

 あたしは、自らを奮い立たせるように吠え、そのまま走り続ける。もちろん必死にトンファーで乱撃を弾くが、受け切れなかった刃で、傷がどんどん増えていく。
 それにも怯まず、ようやく彼の懐まで辿り着き、眼前には焦燥の顔をした美人が見えた。
 よしっ! これで隙をつけれる!
 剣が戻り切らない内に、あたしは膝の力を抜き、一気にしゃがみ込み、足払いをかけた!

「なっ!?」

 思惑通り、バランスを崩す半兵衛さん。その隙を逃さず、陸上のスタートの要領で、一気にダッシュするあたし。そしてそのまま加速してジャンプし、城壁の上の屋根に着地した。
 おしっ! 後は此処を飛び降りて、ずっと走ればOKね!

「次は絶対打ち負かしたる! 覚えてなよ!」
「くっ…待て!」

 軽く悪役っぽい捨て台詞を吐き、静止の声も流して屋根を飛び降りて、そのまま全速力で山林を駆け抜けたのだった。













「はぁ……ここまで来れば大丈夫…かな…?」

 どれぐらい走ったか、今何処にいるのかは分からない。けれど、シトシトと雨が降り出す中、あたしはそこでようやく立ち止まり、安堵した。

「うー…やっぱ痛い…」

 受けた傷は最初に比べて軽いモノだったが、それでも斬られるのは痛い。
 打撃系の痛みだったら、まだ耐性はあったんだけど。まあ、それはともかく。
 近くに都合良く洞穴があったので、そこで腰を下ろし、今度こそ胸を撫で下ろす。
 雨が血の匂いを消してくれるだろうから、とりあえずは一安心だけど、早い内にこっから離れなきゃ、な……。
 一気に疲れが出てきて、あたしはいつの間にか眠りについたのだった。



―続。―



今回、色々と打っては消し、打っては消しの繰り返しでした。ていうか、戦闘描写すごく難しいです。
頭の中ではイメージ出来てるのに、それを文字に表すのって、今更ながら大変です…。
当初は、「命絶えるように」使うはんべさんも書くつもりでしたが、結局書けませんでした…。ううっ、修行が足りないっ。

けど、今回は慶次ストーリーのエピソードをちょこっと絡められたので、これからも小ネタ的に各キャラのストーリーを絡めたいなぁ、と思いました。(作文)

さて、中途半端な終わり方ですが、それでは〜。

2007.05.18 柾希