旅に出てからというもの、なんだかロクな人に会っていない気がする今日この頃。
 今更ながら、この戦国時代って、あたしが知ってる戦国時代じゃないんだって実感しちゃう。ホントに今更だけど。

 次会う人は、まともだったらいいなぁ……。望みは遥か高いけど。






鬼が来た!
〜きっかけはカジキマグロ〜






 仮面の女王様…じゃなかった、竹中 半兵衛さんから逃げ切ってからおよそ二週間。途中、宿場町で傷を癒しつつ、あたしは適当に歩みを進めていた。
 現代と違い舗装のなされていない道を歩くのは、当初は非常に疲労がたまったが、二週間以上も旅を続けるとそれが苦にならなくなった。
 つまりは基礎体力の向上に繋がる訳で。旅に出た当初よりも体力がレベルアップした、という実感が湧いていた。
 けど、まだまだ精進あるのみね!



 ……とまあその前に。


「おさかなおさかな焼けたかな〜♪」

 何故か道端に落ちてたカジキマグロ(多分釣りたてのピチピチ)を焼き、あたしはうきうき気分になっていた。
 見つけた時は、まだ元気よかったから、まあ大丈夫でしょ!

「テメエかっ! 俺らの獲物を横取りしたヤツは!」
「いきなり何っ!?」

 何の脈絡もなく現れた男に、あたしはすぐさま構えた。
 慶次兄ちゃん程ではないが、やたらめっさガタイがいい男だった。
 それから、半兵衛さんや明智さんとまた違った銀髪で、左目には眼帯がつけられている。武器なのだろうか、碇みたいな形のゴツい槍を手にしていた。
 そして、そんな男の背後には、実に男臭いにも程がある連中がいた。なんというか、ありったけの夢をかき集めて探し物を探しに行く某海賊団みたいだ。

「えーと、何処の荒くれ者?」
「アァ? 俺を知らねえのか?」

 あ、荒くれ者なのは否定しないんだ。
 とまあそんなツッコミはさておき。その男は碇槍を豪快に振り回したかと思いきや、

「俺の名は長曾我部 元親! 鬼ヶ島の鬼ってえのは俺のことよ!」

 と、高らかに宣言した。

「長曾我部…さんね。あ、あたしはって言います。今は一人旅をしてます」
「へえ、女の一人旅か……ってちげえッ!!

 自ら「鬼」とかほざく発言をスルーし、穏便に済まそうと挨拶したが、あっさりノリツッコミをされた。

「俺達が目を離した隙に獲物を奪うたぁ、いい度胸してんじゃねえか、アァ?」
「獲物? って、もしかしてあのカジキマグロ?」

 長曾我部さんの態度にも怯まず、こんがりと美味しそうな香りを漂わせるマグロを指差すと、荒くれ者達は一斉に頷いた。

「ちょっ、待ってよ! アレは盗んだんじゃなくて、落ちてたのを拾っただけよ!
落ちてたマグロがあったら拾う! そして持ち主がいなかったらあたしがもらう! これがマグロに対する礼儀ってもんでしょ?」
「どんな理屈だよっ!?」
そんな理屈よ!
「言い切んじゃねえッ! …よし、だったらこうしようじゃねえか!」

 言って、碇槍の尖端をあたしに向ける長曾我部さん。そして口の端を上げながら、

「俺と勝負して、おめえが勝ったらそのカジキマグロはくれてやるよ。けど、俺が勝ったら代金はキッチリ払ってもらうぜ? ま、海賊の流儀ってヤツだ」
「はあ!? 海賊の流儀って、何を勝手に…」

 いきなりの提案にあたしは抗議の声をあげかけるが。

「たりめえだろ! ナメてんのかガキ!」
「アニキに刃向かおうってのか!?」

 後ろの荒くれ者達のブーイングで呆気なく書き消された。
 ……しょーがない、か…。

「…分かったわよ。その喧嘩買うわ! 白黒はっきりつけよーじゃない!」

 ビシィッと指差してそう答えると、彼は不敵な笑みを浮かべながら、「そうこなくっちゃな」と呟いた。







 互いに獲物を構え、正面を向き合うあたし達。長曾我部さんは碇槍を、あたしは木刀を手にして戦いの合図を待った。

「いざ尋常に――」

 あたし達の間にいる海賊Aがすぅっと右手を挙げ――

「勝負!」

 その声と同時に、あたし達は動いた!
 先に攻撃を仕掛けたのはあたし。外野のアニキコールが流れる中、ためらいナシで脇腹を狙うが、片手持ちの碇槍で難なく防がれる。
 そのまま柄の部分を今度は振り下ろしてきた。
 その場で地を蹴ってそれをかわすと、更に流れるように槍が襲いかかる!

「…ッはあっ!」

 寸前でそれを切り払い、あたしは間合いを取った。

「へえ、アンタなかなかやるじゃねえか。何処のもんだい?」

 随分と楽しそうに笑う長曾我部さん。もっとも、お互い攻撃の手は休めないが。

「一応、加賀辺り…になるかな? 前田家の皆さんにお世話になってるの」
「前田…って、ああ、あの腹ぺこのヤツと料理のうめえ嫁さんか」
「アレ、知り合い?」
「おうよ。前に美味い飯を作りてえからって、マグロを釣りに来たぜ」
「いいなぁ……!」
「おうよ! なんたって、脂ものってっからよォ!」
「へえ!」

 碇槍にくっついてる鎖が風を斬りこちらに飛んでくるのを避ける。
 そして、モーションの大きさから生まれた隙を逃さず、あたしは今度は刀の柄で突いた。

「グッ!」

 あたしの攻撃に若干よろめく長曾我部さん。その懐に入り、あたしは――

ドゴォッ!

 彼の顎へとコークスクリューアッパーをヒットさせ、沈黙させたのだった。
 その瞬間、ギャラリーと化していた海賊達は「アニキィィィィッッ!!」と暑苦しく叫びながら、長曾我部さんの元へ駆けていったのだった。






「テテテ…。っつったな。なかなか強えな、アンタ」

 海賊Bに介抱された長曾我部さんは、開口するなりそう言った。あたしは苦笑して、

「そっちが手加減してなかったら、勝負は分かんなかったけどね」
「なんだ、気付いてたのか」
「だって。あたしの顔を傷つけないようにしてたでしょ?
それに、パワー…力で押し切ろうとしてなかったし」
「そうだな。アンタが女ってのもあるが…」

 そこで長曾我部さんはゆっくりと身体を起こした。

「そっちも俺を殺そうと考えてなかったろ?」
「へ? いや、そりゃそうだけど…」

 だって、いくらあたしでもカジキマグロに命をかけないよ。元々ただのケンカのつもりだったし。
 と、あたしが更に口を開こうとした刹那。

「アニキ! 大変だ!」

 ギャラリーを掻き分けて現れた青年が長曾我部さんの元へ駆けていった。

「どうした、何かあったのか!?」
「ああ!あのおかしな南蛮人がまた攻め込んで来やした!」
「なんだと!? そいつは確かなのか!?」
「密偵からの確かな情報だぜ。明日には多分…」

 うーん…なんだかちょっぴりシリアスモードだなぁ…。
 などと他人事みたいに(実際にそーなんだけど)眺めてた刹那、長曾我部さんに腕を引かれ―――

「よォし、行くぜ野郎ども!」
「アニキィィィィッ!」
「ちょっと待てぇぇぇッ! なんであたしを抱えるっ!?」

 そう。なんとあたしは長曾我部さんに、荷物の如く肩に担ぎ上げられたのだ! 長曾我部さんの肩の上で足をばたつかせたりするものの、彼はビクともしなかった。
 それどころか。

「俺ァアンタが気に入った。それにあのいけすかねえ野郎をぶっ倒すのに、アンタの力も借りてえからよォ」
「だからって…ッ!」

 「だからって、あたしには関係ないでしょォォォッ!」というあたしの叫びも聞き入れず。彼とその子分達は暑苦しいまでのテンションで話をどんどん進めて行く。



 かくて。



「野郎ども! 鬼の名前を言ってみろ!」
「モ・ト・チ・カ!! うおぉぉぉぉぉッッ!!!」

 暑苦し過ぎる叫びをBGMに、あたしは強制的に四国へ向かうハメになったのだった……。


―続。―



更新が遅れながらも、ひとまず西日本でアニキご登場です。
当初この回は真田さんか伊達さんか織田さん一家か非常に悩んでたのですが、結局アニキにしました。ついでにまつ姉ちゃんストーリーにちょこっと関連させてみたり。
関係ないですが、テスト前ってついつい勉強以外のことに走りますよね。(ダメ学生め!)

……頑張ります。色んな意味で。

2007.07.12 柾希