ここは京都。古来より場所、文化共に日の本の中心とも言える国。そこの町は常に華々しく、町人達は祭りに喧嘩に、とにかく活気に満ちている者ばかりであった。
 そして今は春。京の都が一層美しくなる季節であり、咲き乱れる桜は人々の心を惹き、それは武士も町民も関係なかった。
 多くの町人が花よ酒よと楽しむ中、慶次はある場所に訪れていた。そこには一本の桜と、大人の頭程の石がぽつりとあった。

「…久しぶりだな」

 石の前で胡座をかいて、慶次は話しかけるように口を開く。その表情は穏やかで、しかしながら何処か憂いを帯び、普段の陽気な彼のものではない。

「俺さ、アイツに会ってきたよ」

 かつて、自分の隣で笑っていた心優しい友と、自分が恋した女性と過ごした日々。温かく穏やかなこの時間が愛しく、何の根拠もなく、ずっと続くと思っていた。



 しかし、そんな日常の終焉はあまりにも突然で、あまりにも哀しいものだった。







『秀吉ーーーーッ!』
『慶次…違うの…。あの人を責めては…駄目…』

 呼び掛けても振り向くことのなかった、かつての友。自分よりも小さなその身体は血に染まり、それでも彼女の顔は優しく微笑んでいた。

『ねね、死ぬな!』

 慶次がいくら呼び掛けても、閉じられた彼女の眼が再び開くことはなかった。
 そしてその光景は、数年経った今でも、まるで昨日のことのように思い出せたのだった…。







「俺はあの時から、ずっと目を背けてた。嫌な事は忘れようと思ってた」

 さあ…と風が吹き始め、桜の花びらが一層舞う。

「ねね。俺はねねの事が好きだったよ。あんたに出会って、俺は恋を知って、人を恋う大切さをすごく実感できた」

 それはずっと慶次の胸に秘められた気持ち。恋した女性は友を愛し、友もまた彼女を愛した。

 だからこそ、ずっと言えずに、言わずにいようとした気持ちだった。

 けれども慶次は自分の気持ちを言葉にした。

「俺はもう忘れないよ。ねねに恋した事も……秀吉との事も」

 慶次の顔に、もう憂いはなかった。







「わっしょい、わっしょい!」

 神輿を掲げる若い衆の、威勢の良い声が花街中に響き渡る。慶次はその神輿に乗っかって、密かに大阪城から持ち出した大判を景気よくばら蒔いていた。

「これで土産物を買って、いい人に会いに行けよおっ!」

 心地良い太鼓の音。人々の笑顔。祭は大判がなくなった後も盛り上がり、いつもの喧嘩祭り以上に慶次も、花街の人々もうんと心を踊らせているのだった。


―終。―


2年程前に前田家創作企画サイトに提出した代物です。他の方々が書かれた慶次はみんな素敵に情緒溢れるCPなのに、一人だけ色が違うものをだしてしまいました。私の文の未熟さがこれでもかと言う程に浮き彫りにされてます。
見れば分かると思いますが、この話は2の慶次ストーリーEDを背景にしてます。最終章で秀吉倒した後とEDで小判をばら蒔いた後とテンションがかなり違ってたので、私なりに考察して補足してみました。
この話の慶ちゃんが、私の中で持ってるゲームの慶ちゃんのイメージの一つです。だから夢でもCPでもこんな感じで決着つけた後の設定で妄想話を考えてます。

とまあ、またぐだぐだとなったので、この辺でっ!
企画サイトの方はリンクが繋がっていますので、是非是非ご覧下さいませ♪

2007.12 企画提出
2009.01.08 再録 柾希