しょりしょりしょりしょり。

 静かな部屋の中であちこちで響くのはジャガイモの皮を剥く音。あたし達は今日のお昼の為に、グループに分かれてイモの皮剥きをしていた。

「はぁ〜……。毎日毎日イモ剥きとは、やんなってくるぜ…」

 皆が黙々と皮剥きをしている中で、誰もが思っている事を言ったのはデュオ。心なしかそのおさげ髪もしょぼんとしている気がする。

「デュオ…そんな事を言ってはダメでしょう?」
「そうだぞ」

 カトルが眉をひそめながらデュオを窘め、キンケドゥがイモと包丁片手に続く。

「昨日はニンジン。一昨日は玉ネギ。『イモ剥き』は毎日じゃないぞ」
ツッコむポイント間違ってるしッ!

 明らかにズレた指摘に、即座にツッコミを入れるあたし。
 ていうかシー…、キンケドゥって、いつからボケに回ったんだろう? バルマーの時はツッコミだったのに…。
 あ、言い忘れてたけど、このグループはあたしとデュオとカトルとキンケドゥ、黙って刀で皮剥きをしているゼンガーさんの5人なのだ。
 キンケドゥのズレた発言に、デュオは呆れ顔でキンケドゥに向き直りながら言う。

「結局、皮剥きに変わりねえじゃねえか…。大体、前より稼ぎ役が増えたんだから、俺達がコレやらなくても大丈夫なんじゃねえか?」
「あー…それ、あたしも思うわ」

 と、思わずあたしも納得する。ちなみに稼ぎ役とは、アラド、ヒイロ、キンケドゥ、ジュドーなど、資金をちょっぴり多めに稼ぐ人達のことである。
 そんなあたしとデュオの疑問に、真面目に皮むきをしていたカトルは。

までデュオと同じことを言うの? 確かに稼ぎ役は増えたけど、それ以上にメンバーが増えたんだから、結局は節約が必要になるんじゃないか」

 と、至極もっともな意見を発し、

「そうそう。前よりエンゲル系数が増えたんだから、節約できる所は節約しなくちゃな」

 と、キンケドゥが更に畳み掛けた。

「…何だか随分主婦くさくなったよね。君」

 そう、素直に感じた意見を言うと、彼は少しキョトンとした顔つきでこっちを見る。

「そうか? …まぁ、色々あったからな」

 その『色々』って何なんだろう…?聞きたいような、聞きたくないような……って……ん? あれは…。

「ヒイロ! もう終わったの?」
「…か」

 ふと何処かへ行こうとするヒイロの姿を見つけ声をかけたら、あたしに気づいた彼がこっちにやって来た。

「はっやいなぁ〜。なんでそんなに早いの?」

 グループごとにあるノルマは同じなのに、と訊ねると、ヒイロはある方向を指差す。

「あいつらがいたからな」

 その方向を見ると、宙返りをしながら他のグループのイモの皮を剥くトロワと、ナイフで皮剥きをするアイビスを手伝っているツグミの姿。確かにこのαナンバーズでも器用な方に入る二人がいれば早いだろう。まあ、なんでわざわざ曲芸しながらイモ剥きやってんだというツッコミもあるが、彼の場合、今更である

「それと、クスハが通販で買ったという皮剥き器を使っていたからな」
「え、ンなもんあったの!?」

 あたしの台詞に「ああ」と、ヒイロが頷く。周囲をよく見ると、何気に使ってる人が多い。そういえば、クスハっていつも何処から通販グッズ買ってんだろう、なんて疑問を頭に浮かべていると、ヒイロがあたしに皮剥き器を差し出してきた。

「ヒイロ?」
が使え。俺にはもう必要ない」
「あ、ありがと」

 いきなりのことに多少戸惑いつつ、あたしは素直にヒイロの好意を受けることにした。
 ああ、前大戦であんなに自爆しまくってた子がこんなにイイコになっちゃって、お姉さん嬉しいわ…!
 なんてノリで内心感激してると。

「なんだよヒイロ。やけにに優しいじゃねえか?」

 そんな台詞とともに背後からデュオがあたしの肩を掴んだ。その声にはからかいが交じっている。ヒイロは少しだけ眉間にしわを寄せ、

「お前には関係ない。それよりから離れろ」
「それこそヒイロにゃ関係ねえだろ? お前、お嬢さんになかなか会えないもんだから、欲求不満になっ……」
「…………殺す」

 わんぱく坊主のような笑顔のデュオが言い終える前に、ヒイロは躊躇なしで銃を構え──

ってストップ!ストップゥゥゥッ!! こんな所で銃撃つなぁぁ!
「そっそうだ! 誰かに当たんだろ!?」

 即座にツッコむあたしとデュオに、しかしヒイロはいつもの無愛想で言葉を続ける。

「気にするな。デュオにしか当てない
「気にするわぁぁッ!! ていうか殺る気マンマンッ!?

 前言撤回! やっぱ変わってねえコイツッ!! つか、止めなきゃ!

「カトル! ヒイロを止めて!」

 とりあえず五人のリーダー格のカトルに頼むが、彼は先刻とは一転して非常に爽やかな笑顔で、

「ああ、あれはじゃれ合ってるだけだよ」
「どの辺がっ!? あの子すっごい殺気立ってるじゃんか!!」
「だってあんなに楽しそうなヒイロ、めずらしいよ」

 あの、カトルさん? 無表情で銃をデュオに撃ってるヒイロのどこが楽しそうなんですか? ていうかいつもとどう違うんだよ!
 瞬時にそうツッコミを浮かべると同時に、カトルは当てにならん、と確信。
 えーと、他に誰かいないかな…! トロワは子供達相手に曲芸披露をやってるし、五飛はいつのまにかゼンガーさんと京四郎さんに対抗して、青龍刀でイモを剥いてるし。
 下手にゼンガーさんに頼もうもんなら、何か斬られそうだし。色々。
 チクショウ、こーいう時に限って、頼りになる凱さんとか宙さんとか凱さんとかスクランブル要因だしさ…ッ!!
 周囲に彼らを止められる人が見つからなくて、思わず近くにいたキンケドゥに視線を送るが、彼は苦笑しながら『俺に彼らを止められるわけがないだろ?』という眼差しで、力の限り主張していた。
 うん……そうだね。ゴメン、キンケドゥ。


 えーっと……。


 ……………………。


 …………………………。


 ………ゴメン、デュオ。頑張って生き延びてちょうだい。死なないように祈っとくから。

 あたしはそう心の中で激励し、知らぬ顔で再びイモ剥きを始めたのだった。








 この後、ヒイロとデュオは誰かの通達で騒ぎを知ったブライトさんの修正により沈黙され、二週間の皿洗いの罰を受けましたとさ。

 ※教訓
 イモ剥きは真面目にやりましょう。

 めでたしめでたし。

「めでたしくねぇぇぇぇぇぇッッ!!!」

―End―



最初にα2(親分編)をプレイしてる時に印象的なエピソードだったんで、こんなアホ話を作っちゃいました。私の中では「α2=皮剥き」みたいな方程式が出来ちゃってます(笑)
メインは親分ルートですが、他の主人公'sも出してるあたり、趣味入ってます。
こういうアホ話は、書いていてやっぱり楽しいです。
あ、ちなみに最後の叫びはデュオです(分かり辛いよ)

2007.03.21 柾希