「へーっくしょんっ!!」 「…八度六分。立派な風邪だね。全く…」 は呆れる様に溜め息をつき、横になっているマサキに目を向けた。 今、ロンド=ベルでは子供たちを筆頭に風邪が流行していた。最初は子供たちだけが寝込んでいたのだが、それがどうやら、度重なる戦闘で、心身共に疲れきっているパイロットたちにも押し寄せてしまった様で、艦内は病人でいっぱいになっていた。 その為、数少ない健康体な人々は、こうして看病をせざるをえなかった。 はその数少ない健康体の一人で、マサキをはじめ、数人の看病に追われていたのであった。 「…しっかし、まさか君まで風邪ひくなんてね〜」 「な…ッ!それって俺が馬鹿だと言いてぇ……の…か…」 の言葉にムッとし、マサキは勢いよく上半身を起こしたが、すぐにまた床に伏した。 「あ〜、もう。無理しちゃダメじゃん。風邪は万病のもとって言うでしょ?」 がそう言うと、マサキは不満気に顔をしかめる。そんな彼を見て、は内心苦笑しつつ、立ち上がった。 「…何処に行くんだ?」 「何処って……他の人のトコだけど。元気なのが両手で数える程しかいないから、見て回らなきゃなんないの」 「他の人……って、誰の所だよ?」 そうに尋ねると、彼女は自分の看病する人間を頭に浮かべ、 「確か、あたしは……マサキでしょ。SRXチームでしょ。それからリューネでしょ……」 と、指折り数えながら言い始めた。 が言う人間の中には、彼女に好意を持つ者もいた為、マサキはその度に内心苛立っていた。 どうしてお前は誰にも優しいんだよ? 俺は……お前しか見えないのに 俺だけを見てほしい 他の奴が目に入らない様にしたい 「マサキ?」 に声をかけられ、ハッとする。 マサキの態度に疑問に思い、怪訝な顔をしながらは改めて声をかける。 「……マサキ。どうしたの、一体?」 「何でもない」 「何でもなくないじゃん! いきなり怒りだして」 「怒ってなんかいねえよ! ほっといて……」 自分の言葉を途中で止め、マサキはそのまま黙りこんだ。 「「………」」 部屋に静けさが広がる。 「……」 沈黙を破ったのはマサキだった。 「……ワリィ。どうかしてる」 自分を心配してくれる彼女に、でもそれが『特別』じゃなくて。 『自分だけを』 を独占したい、そう思ってしまう自分が情けなかった。 横になったまま背を向けると、不意にがマサキの額に手をのせ、口を開く。 「……ホント。熱もあるみたいだしね」 (これじゃ、放っておけないじゃん) いつも元気なマサキの、こんな弱々しい姿が、かわいいなんて思ってしまう。 もっとも、こんな事本人には言えないけれど。 しかし、一人にだけは構ってられない。そう思い、はマサキから離れようとすると、彼は彼女の手を掴み、じっと見つめてきた。 「…あの…マサキ? 離してくんない?」 「嫌だ……」 即答だった。は強引に手を払おうとしたが、マサキが何だか捨てられた子犬の様な目で見つめていて、できなかった。 「あーもう、わかったよ。居てあげる」 はアッサリと折れ、そう呟く。が、返事がない。 「スー……」 「…って寝たんかい。ていうか寝るの早っ」 けれど、マサキはしっかりとの手を握っていて。 は他の人たちが気になったが、マサキの寝顔が見られるからいいかな、なんて思った。 翌日、マサキは見事なまでに回復し、今度はが風邪になってしまった。 しかし、マサキが看病してくれ、は内心風邪に感謝していたのだった。 ―End― 一番初めに公開した夢小説。 駄文だと思ってても、やっぱり愛着があるヤツです。内容はものすごくベタですが(笑) 2007.02.23 柾希 (2006.12.02 携帯サイトにて修正転載) |