遥か遠き未来の世界、惑星ゾラ。
 この世界にはブルーストーンと呼ばれる鉱石で、バザーが営まれている。

「……とまあ、少なくとも今のプリベンダーにとっても、バザーは重要なんだけど」
「ああ。貴重な物資補給の一つだな」
「そうだよね、キッドさん。で、今日はあたしの当番だから、これからバザーに行く訳だけど」

 そこであたしは一呼吸おく。

「どうしてあなたはナチュラルに、あたしの肩に手ぇおいてんですか?」

 そう。J9の一人、『ブラスターキッド』ことキッドさんはにこにことしたハニーフェイスで、何故かあたしの肩を掴んでいたのである。

「キッドさん、なーにちゃんの肩掴んでんの」

 帽子とそばかすがトレードマークな、J9メンバーの一人ボヴィーさんが不満気にキッドさんを軽くたしなめる。
 けれど、キッドさんは気にした素振りも見せず、

「おやぁ、男の嫉妬は見苦しいぜ? ボヴィーさん」
「へえ。キッドさんたら言うじゃないの」

 怖ッ!! 何この空気!?
 キッドさんとボヴィーさんの間に、激しい火花が見えるんですがッ!
 そんなあたしを余所に、以前として互いに牽制しあう男二人。それがどっちも笑顔だから尚更怖い。
 どうしよう…このままだとバザーに行けなくなる可能性大だしっ!
 二人をどうなだめようかと頭をフル回転し始めたその時だった!

「探したぜ、キッド!」

 その声に、あたし達三人は振り返る。獣戦機隊のリーダーである忍だ。

「忍じゃないか。何か用か?」
「『何か用?』じゃねえよ! お前、今日はフリーデンでライブだろうが!」

 忍に言われ、小声で「ヤベッ」とバツが悪そうな顔をするキッドさん。反して、やけに嬉しそうになるボヴィーさん。

「ライブねぇ。それじゃあバザーなんて言ってる場合じゃないわね〜」
「ぐっ……!」
「ボヴィーさんよ。言っとくが、アンタも今日は先約があっただろ? 豹馬達が探してたぜ」
「あら…俺ちゃんたら忘れてた」

 忍の言葉で先程までの笑顔から180°変わり、心底残念そうになるボヴィーさん。

「悪いな、。バザーに付き合えなくて」

 いや、そもそも約束してませんからキッドさん…!

「ホント、俺ちゃんとしては可愛い女の子と過ごしたいけどね〜」

 うん、それはいいから、早く豹馬達の所に行ってあげなよボヴィーさん…!

「オラ、さっさと行くぞ。、またな」
「あ、うん」

 言って、忍は二人の腕を掴んでは来た方向へ去っていった。
 ありがとう忍……いや、救世主(メシア)ッ!!
 救世主忍の背中に向けて敬礼のポーズをしながら、あたしは心底感謝したのであった。










 格納庫に着いて、あたしは整備班の人に車を出してもらい、運転席に座る。
 あっそうだ。一応買ってくるモノを確認しとこ。
 ポケットから折り込まれた買い物リストを取り出し、開こうとしたら、不意に頭上から、よく見知った手が紙を奪った。

「ちょっと、何すんのよ」
「別にただ見るだけだろ? ケチケチすんなって」

 あたしが軽く睨んで言うと、その手の主──マサキ=アンドーは特に気にする素振りも見せず、紙に書かれた文字に目を通した。
 すると目をわずかばかり見開き、視線をメモからあたしに移して彼は言う。

「お前…これ全部1人で買うつもりかよ」
「そうだけど。他のメンバーは体調崩して医務室行きだもん。てか、メモ返してよ」

 再び彼からメモを奪い返し、内容に目を通すと、なんと見事な文字の羅列!
 買う物は基本的に生活用品ばかりなのだが(パーツだのの類はメカニックや熟練パイロットの担当)、中には個人の嗜好品もあるため、項目は少なく見積もって50ぐらいはあった。一人では無理…という訳ではないにしろ、これでは一日丸潰れは確実であろう。

「多すぎじゃないの」と、思わず一言洩らすと、
「当番のヤツが駄目なら、代わりに誰か連れていきゃあよかったじゃねえか」
「いや、だって。あたし他の人の休みとか把握してないし、1人でも大丈夫かなー、と思ってたんだもん」

 まぁ、ジャミルさんかエルチに訊けば分かったかもしれないけど、せっかくの休みを費してもらうなんて申し訳ないし、何より訊くのが面倒くさい。
 だから、先刻のキッドさんとボヴィーさんの申し出を丁重に断ったのだが(結局は彼らも予定が入っていたけれど)。
 そんなあたしの台詞に呆れたようで、マサキは「しゃあねえなぁ…」と呟き、

「お前1人じゃ危なっかしいし、付き合ってやるよ」
「…いいの?」思わず目を見開いて訊ねるあたし。「マサキもせっかくの休みなんでしょ?」
「ん? ああ、お前一人じゃ放っておけねえからな」
「えっ……」

 思わず顔を赤くするあたしに、

「お前、ボーっとしてるところあるから、心配なんだよ」
「あー…そ、そういうこと……」

 そうだコイツはこーいうヤツだった。リューネの分かりやすいアプローチにも気づかないぐらいの鈍感野郎なんだった。しかも邪気のない笑顔で言いやがった。
 チクショウ、コイツにときめいてしまったあたしが馬鹿だった。

「? なんか俺の顔についてるか?」
「ううん、なんでもない…」
「?」

 なおも頭に疑問符浮かべるマサキにあたしは溜め息をつきたくなったが、まあいいか。ともかくデートとも言えるのだから。………多分。

「それじゃあ、お言葉に甘えてお願いしますね、マサキさん」
「ああ、さっさと行ってくるか」

 そしてあたし達は車に乗り込んで、慌ただしくも楽しい一日を過ごしたのだった。








 翌日。実はヤンロンさんからの特訓から逃げ出していた為に、魔の説教地獄を受けているマサキを目撃したことは、また別の話である。

―End―



最初の携帯サイトでリクをいただいてたのですが、上手く書けずにおよそ1年半かかりました。(遅すぎるッ!!)
リク内容は「α or α外伝設定のマサキ夢(逆ハー風味)」といった内容なんですが…逆ハー……?(聞くなよ) いや、一応頑張ってJ9のお二人に出張ってもらいましたが、果たして逆はーと言えるかどうか。
個人的にはα外伝っぽくライトなノリに仕上げられたのは楽しかったのですが。

というか、本当に遅くなってゴメンなさい!


2007.07.31 柾希