夜中に部屋を抜け出して、なんてZZオープニングの歌詞のような事をして、あたしは一人アーガマのラウンジでココアでも飲んでのんびりしようと考えていた時だった。 ラウンジには既に先客――バルディオスのメインパイロットのマリンさんがいて、何故か自販機の前で立ち往生していた。 「マリンさん、どうかしたの?」 そう呼び掛けてみると、本人はゆったりとした動作で振り向いた。ふわり、と紺碧の髪が揺れる。 「お前は確か、…か? どうかしたのか?」 と訊ねられて、あたしは素直に答える。 「ちょっと目が冴えたからココアでも飲もうかなあ、って。マリンさんこそ、何かあったの?」 「いや…俺もコーヒーを飲もうと思ってたんだが…」 「…もしかして、出し方が分からない、とか?」 可能性の一つを挙げた途端にマリンさんは厳しい顔で無口になった。どうやら図星らしい。分かりやすいなあ。 「コーヒーだよね。ちょっと待ってて」 込み上げてきそうな笑いを何とか噛み殺し、あたしはマリンさんの前に割って入り、自販機のボタンを押してコーヒーを出す。軽い音を出して落ちた紙コップにコーヒーが注がれたのを確認して、それをマリンさんに手渡してやる。同じように、自分で飲む為にココアも出した。 「すまない。あの機械は初めて見たが、あんな風に使うんだな」 「マリンさんがいた所にはなかったの?」 「ああ、大抵自分で入れるか、人に入れてもらうかのどちらかだったからな」 「そっか」 そういやマリンさんって地球に来てまだ日が浅かったっけ、と思い出しつつ、あたしは適当なソファーに腰を降ろす。マリンさんも同じようにあたしの隣に座って、コーヒーに口をつけた。 「兜甲児もそうだが」一飲みして、マリンさんは言い始める。 「ん?」 「俺をスパイだと疑う奴もいるのに、何故お前は俺を信じるんだ?」 真顔でそんな事を言うもんだから、あたしは思わず、 「疑ってほしいの?」 なんて間抜けな言葉で訊き返してしまった。「地球を守りたいってのは嘘じゃないんでしょ?」と更に訊ねれば、マリンさんは「当たり前だ!」と迷わず肯定する。 「なら問題ないじゃん。地球を守りたいって気持ちが同じなら、地球人とか異星人とかどーでもいいと思うよ」 「!」 珍しく目を見開いてこっちをじっと見るマリンさんに、更に言葉を続ける。 「あたしがいた世界でも、この世界みたいに地球人同士で戦争をしてた。もちろん異星人ともね。 でも、そういった争いを越えて仲良く分かり合える人達もちゃんといた。生まれた星が違っても、愛し合える事が出来る人達もいた」 多元世紀――様々な世界が混ざり合って生まれた新世界。ニュータイプとかコーディネイトとか、あとは生まれた星が違うってだけでぶつかりあったりしてる世界。 でも、あたしとしてはそんな違いなんて、どうでもいいと思う。 あたし達ロンド・ベル隊は生まれた場所が違っても、同じ思いを持ってたから共に戦ってこられたのだから。 もっとも、こうやって考えられるようになったのも、ロンド・ベルの皆と一緒にいたからなんだけどね。と内心で呟き、あたしはココアを飲む。 「そりゃ、あたしだって聖人君子じゃないからすべての人を最初から信じる訳じゃないけど、マリンさんの目はとても真っ直ぐだもん。だから信じるよ」 「……お前はやはり変だ」 「なっ!」 そ…そこまでストレートに言わなくてもいいじゃん! 確かにこの世界の人達からすればヘンかもしれないけど! そう文句を言おうとして、バッとマリンさんの方へ顔を向けた――けれど、それを口に出すことは叶わなかった。いや、文句を言う気も削がれたというか。 あたしをヘンだ、という彼の表情はそれまで見た事もない、優しい笑顔だった。元が結構な美形なもんだから思わずドキリとする一方で、きっと今のマリンさんが本来のマリンさんなんだろうな、と我ながら冷静に思った。 もう少しだけ、この笑顔を見てみたい。 そう思ってしまったあたしは、結構面食いなのかもしれない。いや、ロンド・ベルに美形がいなかった訳じゃないけど。むしろたくさんいたけど。 それでも、こうして胸の内がキュウとなるのは初めてだ。でも、不思議と悪い感じじゃなかった。 だから今度はあたしからコーヒーブレイクに誘ってみようかな、なんて思いつつ、冷めてきたココアを一気に飲み干した。 ―End― とうとう書いてしまいましたZ夢。しかも原作を全く観たことないマリンで。(うあ) しかも毎度お馴染み尻切れトンボな終わり方です(なんて進歩のない) そうそう、この話の夢主はA連載の子と同じです。連載後のif設定です。連載のオチはまだちゃんと決めてないので(ほんとに行き当たりばったり過ぎる) いや、スパロボZやってて、Zのメンバーとウチの夢主とすっごく絡ませたかったんです!(聞いてない) 多分楽しいのは書いてる本人だけです。それでもちょこちょことZ設定を書いていきたいと思いました。(作文) 2008.12.11 柾希 |