「はぁっ…はぁっ……もぉっ……! 一体出口は何処なのよ!」

 走れども走れども、出口に辿り着くどころか、一層迷い込んでる気がする。

「あたしがいったい何したって言うのよぉぉぉぉッ!!」

 そんなあたしの叫びは、通路に空しく響くだけだった。




刻をこえちゃって
〜今日から私もロボット乗り!?〜





「…はぁ…さ、流石に、こ…の距離で全力は……つ、疲れた……!」

 一旦走るのを止め、あたしは歩きながら息を整える。
 走り回ってみて分かった事と言えば、どうやらここが何らかの研究施設であるらしいって事ぐらい。『らしい』っていうのは、大層な機械が多くあるにも関わらず、それを扱う人間が一人も見当たらなかったからだ。
 まぁ、ここはまだ、何かの襲撃が続いてるから、皆逃げたって可能性もあるけど……。それでも、一人くらい擦れ違ってもいいはずだ。一体どういう事なのか……。

「……って、ここは…?」

 ふと辿り着いた場所は、今までの通路や部屋とは大きく異なり、遥かに広く大きい空間だった。
 慎重に奥へ進むと、誰かの話し声が聞こえ、あたしは見つからぬように少し離れた場所に隠れた。

「…さか、……がここに…るなんて………」

 一人やけに色っぽい大人の女性、といった感じの声。轟音と震動の中、何処かこの状況を楽しんでるように聞こえる。

「……を楽しん……ヤツが……た……」

 もう一人はなかなか素敵なテノールボイス。こちらはすこーしイラついてるご様子。まぁ、こっからじゃ、よく聞こえないから、断定できないけど。
 それにしても、いったい何話してるんだろ?

 少しの間、二人の会話を盗み聞きしていたけど(趣味が悪いなんて言わないでね)、ロクに聞こえなかった為に、あまり意味がなかった。
 気になるけど…下手に近づいて見つかるのもアホらしいし、ここいらで離れようかな。
 そう思い、音を立てないようにゆっくりとここから離れようとしたら、急に鼻がムズムズしてきた。
 まっ…マズいわっ! こんなベタな事で気づかれるなんて、アホらしすぎるッ!!
 必死でクシャミを堪えようと努力したものの、堪えきれず―――

「ふあックションッ!!」

 あたしは非常に盛大なクシャミをかましてしまった。当然、

「誰だ!」

 という男の声と、同時に迫り来る足音が聞こえてきた。

 うわああぁぁぁんッッ! あたしの大馬鹿者! こんなベタな……って、言ってる場合じゃないいぃぃぃぃッ!!
 様々な要因で頭が大混乱するけども、身体は自然と走り出す。しかし、足音は途切れる事を知らないかの如く、絶え間なくあたしの背後で響いていた。

「待て、そこの女!!」

 追われてんのに待つバカがいるかッッ!!
 男の言葉に、心の中で目いっぱいツッコみながら(口にしたら怖いから)、あたしは必死に走り続ける。
 だが、次第に後ろの足音が大きくなり、それにつれて、恐怖の感情が膨れ上がる。



 振り返る余裕などなかった。



 轟音の中、ただ、走る事だけに全神経を集中させていた。



 捕まったら、とても危険な目に合いそうで、とにかく……あたしはとにかく必死で逃げた。





 どれくらい走っただろうか。やがて目の前に人の姿が見えてきた。その人に近付くにつれ、その姿はハッキリしてきた。
 顔はよく見えないが、歳は20前後、といったところだろうか。色素の薄い緑色の長い髪の毛。また、見事なプロポーションで、それを協調するレオタードのような服。
 ………って、あれ? なんか最近見覚えがあるよーな……

「W17! そいつを捕まえろ!」

 W17………って、まさか!?
 男の命を受けた人が、あたしに向かってくる。やがて、『彼女』の顔がハッキリ確認できた。
 彼女は美人だった。α外伝のテュッティの言葉を借りるなら、「彼女が美人でなかったら、人類の7割は美人じゃなくなるだろう」といったところだろうか。
 しかし、何処か異質なモノ―――無機質な雰囲気を感じさせる人でもあった。
 見覚えがあって当然だった。間違いない、彼女は―――

「ラミア…ラヴレス……」

 そう。Aの女性主人公、ラミア=ラヴレスその人だったのだ。
 相手はラミアちゃんか……。だったら!
 瞬時に閃いたあたしは、できるだけ腰を低くして、更に加速する。すると、ラミアちゃんの同じように腰を屈めた。
 よしっ、予想が当たった!

「いち…にの……さぁーんっ!」

 後数十センチでぶつかる、というところで、あたしはタイミングを計って彼女の頭上を跳び箱のように飛び越えた。そしてそのまま着地し、飛び越える時の勢いを殺さぬまま、あたしは通路を駆け抜ける!
 よぉし、作戦成功!






「はぁ……はぁ……」

 どうやら無事に男とラミアちゃんを振り切れたようで、あたしはなんかのコックピットみたいなスペースを見つけて休憩していた。
 ここだったら爆撃も大丈夫だろうし、ひとまずは安心できる。
 それにしても、一体どうなってんだろ? ラミアちゃんがいたって事は、ここはスパロボOG2かAの世界よね。
 で、『W17』って呼ばれてたって事は、まだ平行世界から旅立ってないか、代わりにアクセルがあの世界に行ったって事よね……。
 そう思考を巡らせる内に、ふと、あまりに冷静な自分に苦笑した。
 ……どうかしちゃってるよ。あたしってこんな分析キャラじゃないのにさ。それとも、人間、一度死にそうな目に合うと、随分頭か冴えるのかしら?
 はぁ、と盛大に溜め息をついてそこらに手を置くと、いきなり周りの電灯に光が灯る。

「え、何!? 何やっちゃったのあたし!」

 めちゃくちゃ動転してうろたえてると、正面の画面に文字が浮かび上がった。

「何々…『登録コード、エラー。新規登録コード入力』……。これはどういう……ッくぅ…ッ!?」

 画面に見入っていたら、突如今までで最大の震動と轟音があたしを───もとい、この施設を襲った。
 ひ……ひょっとして、ひょっとしなくても大ピンチ!?
 再び画面に視線をやると、『新規登録しますか?』の文字が浮かび上がっていた。
 ―――あたしの答えは決まっていた。

「答えはYESよ! 訳分かんないまま、死んでたまるもんか!」
『──エラーデータ、クリア。続イテ「ヴァイサーガ」ノパイロットデータ入力ニ移リマス』
「ヴァイサーガ!? …って、まさかあのヴァイサーガ…?」

 うっわまさか隠し機体だったヴァイサーガに乗れるなんて……ちょっと感動だよ!





『──登録完了。パイロット、
「……これで登録完了、っと。」

 コンピュータのガイダンスと、偶然見つけた近くにマニュアルを頼りに、あたしはヴァイサーガの登録を完了した。
 …まぁ、話が出来過ぎてる感は否めないけど。けど、ンな事言ってる場合じゃないのよね。段々震動が激しくなってきたし、このままじゃ危険だ。

「ではいきますか。 、ヴァイサーガ…発進!」

 思いきりバーニアをふかすと、機体は天井を突き破り、空へ舞い上がった。
 基本操作に関しては一応頭に叩き込んだんで、問題はない。…多分。

 外に出て目に飛び込んだのは、蒼い空と工場みたいな建物。そして、わらわらと出て来た青いロボット達───ゲシュペンストMk-U。

「あはは…随分ゴーカなお出迎えですこと」

 茶化した発言をしてみたものの状況が変わる事もなく。やがてその内の1機がスラッシュリッパー──戦輪状の武装──を放った。

「わわっ!? 危なッ!」

 スレスレの所でかわすと、今度は別の一機がプラズマソードで襲いかかってくる。だが、咄嗟にマント状の盾を構え、なんとか堪える。

「ひゃ〜、流石OG2で隠し機体になっただけあるなぁ。盾も頑丈ね」

 けど、いつまでもこんな事してたら、こっちのエネルギーが保たない。なんとかしなくちゃ……って、ん? エネルギーの数値が上がってる……

 ゲージを把握し終えない内に、突如機体の周りが謎の光に包まれてしまった──。


→To be continue…

ご無沙汰だったスパロボ連載ようやく更新〜。っつっても、名前変換のところしか変えてませんが(爆)
しかしコレ、OG2とかAやってない人には分かりづらいかもです…(今更)
マイペース通り越してかなりの亀更新だしなぁ(まったくだ)
さて、次回はいよいよゲーム本編に入ります! それではっ!

2007.06.09 柾希