この戦場に現れた戦艦を見て、あたしは一層目を丸くした。
 記憶が確かならば、あたしはあの白い戦艦に見覚えがあった───どころか、知っていた。

『あれは…アーガマ…! という事は地球連邦軍のロンド=ベルか…!』

 通信を通して聞こえてくる、忌々しげな蒼き鷹の声。
 まぁ、せっかくあたし達を追い込んだのに、敵が出てきちゃあ、忌々しく思うわな。



一難去って、…?
〜何もかもが初めてで大変だよね〜






 戦艦アーガマがこの宙域に現れると同時に、ギガノス側に緊迫が走った。

『ある意味…D兵器より、厄介な相手が出てくるか…!』

 という蒼き鷹の呟きに、確かに、と密かにあたしは共感する。
 もっとも、あたしの場合は自分の今の立場からそう思ってるのだけど。今はまだいいけど、戦闘が終わってからが色々と面倒なのよね。生でアーガマ見れたのは嬉しいけどさ。
 はぁ、と人知れず溜め息をついてたら、アーガマのカタパルトから2機の白いモビルスーツが発進したのが見えた。

 ……って、ちょっ…アレ、もしかしてファーストガンダムとトーラスじゃんッ!! って事は、あれはアムロさんとノインさん!?

「おおっ! ほ、本物だぜ…! ガンダムだ!」
「なんでえ! 俺達だけでやれるっつうの!」

 目を白黒させるあたしとは裏腹に、感動するタップとふてくされ気味なケーン。
 2機のモビルスーツの登場で、この場の空気が固まっていたが、ギガノスの増援の1機がレールガンを構えたのが目に入り、我に返ったあたしはヴァイサーガのマントを展開して盾にした。

「危ないッ!!」

 その盾を広げたまま、レールガンを構えた機体の的となったD―3の前に立ち、直後、盾から僅かな衝撃が伝わってきた。
 ふぅ…間一髪ってヤツだね……。

、助かった!」
「気にしない気にしない! これっくらい余裕しゃくしゃくよ!」

 軽い口調でライトにそう返すと、タップが元気よく声を出した。

「よし、この距離なら、俺に任せろ! ライトの仇だ、どすこーい!」
「勝手に殺すなよ!」

 ライトのツッコミを流しながら、タップがD―2の大砲を発射し、D―3を狙った機体に見事命中させて撃墜した。
 うわ、一撃!? スゴいよD兵器ッ!

「よし、俺も負けてらんねえ! いくぜ!」

 タップに刺激されたのか、ケーンも頭部の装甲を外して、レーザーソードで敵に斬りかかる。
 おおー、あの饅頭みたいな頭は追加装甲だったのね。
 思わずほぉっ、と感心していたら、蒼き鷹があたしに攻撃を仕掛けてくる。あたしは完全に油断していた為、避けきれずに攻撃をくらってしまった。

「イタタ……頭ぶつけたぁ〜…」
『やはりこの機体…メタルアーマーと違う!?』

 ヴァイサーガの頑丈さに驚愕する彼に、あたしはキッ、と睨みつけ、

「よくもやったな! お返しはキッチリさせてもらうよ!!」
『いいだろう…白い悪魔の前に、貴様を倒す!』

 蒼き鷹は、言ってレーザーソードを振りかざしながら、ヴァイサーガに向かってくる。
 あたしもそれに対抗すべく、刀を抜刀して構えた。









 ―──戦いは彼のペースで進んでいた。あたしが間合いを取ろうとすれば、レールガンで距離を取られてしまい、満足にダメージを与えられずにいた。

 この人ホントに強い…ッ!

「…っ! 盾が…ッ!?」

 しばらく、あたしと蒼き鷹の攻防が続いたが、やがて盾が耐え切れなくなり、ミサイル攻撃によって破壊されてしまった。

『遊びは終わりだ!』

 蒼き鷹がレーザーソードをヴァイサーガに振り下ろす。
 ──避けきれないッ!? …っならば!
 あたしは咄嗟の判断―――否、本能的に刀でそれを切り払った。

『なんだと!?』

 すると、まさかあたしに斬撃を切り払われると予想しなかったらしく、彼に僅かな隙が生まれる。
 よっしゃ、今だ!

「チャンスは逃さない! 風刃閃で薙払うっ!!」

 そして、あたしは一気に彼の蒼い機体に間合いを詰め、疾風の如く太刀を走らせ、そしてその刃は彼の蒼き機体を捉えた。

『…っ、ジェネレーターがやられたかッ!?』
「こっちは片付いたぜ、っ! つー訳で、続けていくぜ!」
「ケーン! グッドタイミング!」

 大ダメージを負わせたものの、まだ止めには届かなかったが、その直後、後ろからD―1が現れ、見事に蒼き鷹の機体を撃墜した。

『…やむをえん! 撤退する!』

 無事に機体から脱出したらしく、彼はまだ残っていた機体に回収され、撤退していく。
 そうしてすべての敵機が離脱したのを確認すると、タップが一息ついた。

「ふぃ〜、助かったぁ。…一時はどうなるかと思ったぜ」
「のんびりしてる場合かよ! アイダボの皆が心配じゃないのかよ?」
「ケーン、落ち着け。とにかく、修理と補給を受けない事にはこっちだって動けないんだぜ」

 戦闘前の様に、やけに切羽詰まったケーンをライトが諭すが、ケーンは「くそぉっ!」と、声を荒げる。
 その時、アーガマから通信が入った。

「君達がD兵器のパイロットなのか?」
「あんたが隊長さん? 補給が終わり次第、すぐに出してくれ! リンダ達の所に戻らないと…」
「だから落ち着けって」
「すんませんね。コイツ、今、ちょっと興奮状態なもんで」

 ブライトさんの質問を無視して急ぐケーンに、ライトが諭し、タップがフォロー(?)に入る。すると今度はアムロさんが、

「ブライト、彼らだけを気にかけている訳にはいかないようだ」
「えと…あたしの事…ですか?」
「ああ。君の所属は? それも…D兵器なのか?」

 はぅ…やっぱり訊かれた…。どうしよう…所属も何もあったもんじゃないしな。まさかいきなり異世界の事を言う訳にいかないだろうし。っていうか、言ったら言ったで頭がイタイ人だと思われかねないし。

「所属…は特にない…です。あ、名前は です」
「ああ、彼女はここで知り合ったんです。結構いい人で」
「どうも要領を得んな。…艦長、彼らの収容を」

 あたし達の話(というより主張だが)を聞いて、ノインさんがテキパキと指示を仰ぐと、ブライトさんもすぐに了承した。
 …っと、あたしもケーン達と一緒にアーガマに入るのかな?
 その事を一応確認してみたら、「抵抗しなければね」と、アムロさんに穏やかな声で返された。

「もちろんですよ。ていうか、今ここで抵抗できる程の余力ないです…」
「それはこちらから見て明らかだし、個人的に信用したい。だが、軍というのは面倒くさいものなんでね」
「アムロ大尉。あなたがそれでは困る」

 と、軍人らしからぬ発言のアムロさんに呆れ口調のノインさん。
 そんな時、ケーンとタップが話の腰を折る様な発言をかまし、ノインさんがそれを咎める。

「随分落ち着きがないな。お前達は、D兵器のパイロットとしての訓練を受けてきたはずだ」
「それが…全然受けてないのよね、これが」

 と言ったのはタップ。更に、ライトが補足の説明をする。

「君達は…軍の人間ではないのか?」
「どういうことだ? D兵器は連邦の機密事項のはずだぞ」

 二人の発言に、驚くアムロさんと声が厳しくなるブライトさん。
 軍の機密事項だって? あっらー、結構お約束な展開じゃないの。

「話してもらおうか」
「それはもちろん。できれば、あなたと二人っきりで…」

 うわ、ライトさんったらさりげに口説いてるよ。抜け目ないなオイ!
 事情を尋ねるノインさんに、ライトが返した台詞に、あたしは内心でそんな事を思う。口説かれたノインさんはというと、

「鉄格子ごしで良ければ、な」

 と、アッサリと返していたのだった。
 うーん、流石ノインさん。見事な切り返しだね!
 そして、あたし達4人はアムロさんとノインさんの誘導の下、アーガマへと乗り込んだのだった。










君…だったな。……大丈夫かい?」
「ハハ…な、なんとか平気です……」

 ヴァイサーガのハッチが開くなり、アムロさんが困惑顔をしながら訊いてきた。何せ、着艦の際に格納庫で盛大にコケてしまったのだ。そう訊かれても無理はないと思う。
 まぁ…あたしよか、アーガマの格納庫の方が心配だよ。ヴァイサーガの近くで、整備の人達の悲鳴が聞こえるし。後でアストナージさんに謝ろう…。あ、そうだ。

「あの、アム……えと、ケーン達は?」
「D兵器のパイロット達なら、先にブリッジに行ってもらったよ」
「そ、そうですか…」

 あ…危ない危ない。うっかり名前を言いそうになったよ。
 内心ヒヤヒヤしながら礼を言うと、アムロさんは気にした様子を見せずに微笑む。

「そんなに緊張しなくても大丈夫さ。それじゃあ俺は先に戻るが……君の案内は、彼女に任せているから心配しないでくれ」

 とアムロさんが腕を出した方向には、連邦軍の制服を着た女性がニコリとしてこちらにやってきた。

「それじゃあ、頼んだよ。アストファニー准尉」
「了解しました」

 そのままアムロさんはアーガマの通路に去っていく。准尉さんはアムロさんを見送ってから、あたしに優しくブリッジへと促した。
  コクピットから外へ出ると、身体が妙にフワフワしてしまい、あたしはその場でもがいてしまう。准尉さんは信じられないものを見た、と言わんばかりの顔で、

「…あの、まさかあなた、無重力は初めて…とか?」
「……あ……あははは…は……」

 め……めちゃくちゃ気まずい雰囲気なんですけどぉぉぉぉぉッ!!
 かくて、あたしはブリッジに行く前に、准尉さんから無重力での動き方について、散々レクチャーを受ける羽目になったのだった…。



→To be continue…


という訳で2話に渡って第1話分が終了しました。
あれですね、携帯ゲーム機用のスパロボといえど台詞むっちゃありますよね。これでキャラ増えたらどうなるんだ私(お前かよ)
それはさておき。今回のラストに登場した准尉は完全にオリジナルです。いや、ずっと地球にいた人間がいきなり無重力を移動できないだろ、ということで。
次回こそはさらりとまとめたい…!

2007.08.10 柾希