「この先がブリッジよ」
「ふぅ……やぁぁっと、ここまで来たよ……」

 准尉さんから無重力講座を30分以上受けさせられてから、あたしはようやくブリッジまで案内された。意外と准尉さんはスパルタで、おかげで無重力未経験者なあたしでも、なんとか一人で移動できるようにはなった。
 ていうかさ、17年間地球で生活した女子高生が、いきなり無重力を自由に動き回れる訳ないじゃん! なのに准尉さんはレクチャー中は散々ボロクソ言うしさ……!
 准尉さんが格納庫に戻った後で、あたしは数分前までの体験を思い出し、微妙に鬱になっていた。



改めましてこんにちは
〜こっからがホントの始まり!〜





「失礼しまーすっ!」

 気を取り直してドアを開け、元気よく挨拶した瞬間、ブリッジ内にいた人達が一斉にこちらに向いた。
 うーん、なんだか都会から地方に転校した中学生みたいな気分だなぁ。
 なんて事をしみじみと思い出してると、見た所日本人らしい少年に、「あんたがか?」と訊かれた。

「う…うん、そうだよ。じゃあ君達が…」
「ああ、俺がケーン=ワカバで…」
「俺はタップ=オセアノ」
「ライト=ニューマンだ。改めてよろしく」

 と、口々に言ってくれたので、あたしは「こちらこそ」と手を差し出した。快く握手してくれた所を見ると、仲間として認識してくれてるらしい。
 えーと、黒髪の日本人っぽいのがケーン。色黒さんで体格がいいのがタップ。それから、金髪碧眼の白人さんがライトね。よし、覚えた覚えた。




 あたしが来るまでに、既に3人組の事情は説明されたらしいが、あたしはその事情を知るべく改めて説明してもらった。もちろんアムロさんにノインさん、ブライトさんの紹介もね。
 かいつまんで話すと、ひょんな事からD兵器の起動ディスクを手に入れた彼らは、コロニーを襲ってきたギガノスに対抗する為に、それを動かしたらしい。
 それから難民船アイダボを護衛しながら、連邦軍との接触を求めていた所で、蒼き鷹(アムロさんから聞いたんだけど、『マイヨ=プラート』って言う人らしい)の一行にまた襲われたのだそうで。
 そして今に至るらしいけど、話はそこで終わらなかった。
 D兵器──ドラグナー──はパイロット登録制、つまりケーン達をそれぞれ自機のパイロットとして登録してしまったというのだ。
 ……かいつまんでなかったかな? ま、細かいことは気にしない気にしない!

「登録解除はできないんですか?」
「それが簡単にできたら、登録制の意味がない。専門機関での解析が必要だ。アーガマの設備ではまず無理だな」
「おぉ、神よ、あなたは性格が悪過ぎる!」

 疑問に込められた希望をあっさりと切り捨てたノインさんに3人組は愕然とし、祈る様に手を組んであさっての方向に嘆くライト。ケーンは拳を強く握りながら、

「なんで、そんな面倒臭いシステムにしたんだよ!」
「同じ機種でも、パイロットによってクセが出てくるからさ」とアムロさん。
「最初から特定のパイロットが乗る事を想定できれば、データの蓄積などから、そのパイロットのクセなどに合わせた調整ができる」
「そう、整備に若干の手間はかかるけど、パイロットにとっては自分に合った機体を得られるんだ。いい時代になったよ…」

 と、腕組みしながらアムロさんがしみじみと話を締め括ると、タップはゲンナリした様子で溜め息をついていた。

「そのおかげで俺達は困ってるんですがねぇ…。なんで『いい時代』なんです?」
「一年戦争の頃はマグネットコーティングなどで、機体追従性を無理矢理アップさせたりしていたからさ」
「それに機体の個性化も明確になる。D―1は接近・白兵戦を、D―2は中・長距離支援用…」
「要するに、D―1はチャンバラ用でD―2はドンパチ用、そして俺のD―3は索敵や電子戦用って事か」

 ノインさんの説明に乗って、ライトが納得した様に言うと、ノインさんは「ああ」と小さく頷いて説明をまとめた。







 結局、D兵器と3人はジャブローの本部からの指示を待ってから処遇を決められることとなったが、3人(特にケーン)は理解はしても納得がいかないらしく、不満タラタラの表情になっていた。
 ま、気持ちは分からなくはないけどね。自分達は守りたいもののためにアレに乗った訳だし。

「…ところで、君は…と言ったな」
「あ、はい。そうです」

 ブライトさんにいきなり名指しをされ、あたしは思わず背筋を伸ばして姿勢を正す。

「あの機体は、軍に登録されてはいないようだが…一体あれは?」
「え…ヴァイサーガっていうんですけど…。あ、いや…あたし自身、ヴァイサーガの事はよく分からないんです」
「分からない?」
「はい……」あたしはコクリと頷いて、更に続ける。

「というか、そもそも、どうしてあたしがあの宙域にいたのかもさっぱりなんです」

 嘘は言っていない。分からないのはホントだし。

「ひょっとして記憶喪失か?」

 と、訊ねたケーンにあたしは肩を竦めて、

「一応自分の名前と出身地は言えるけどね。あと、少なくともあたしは軍人になった覚えはないかな」
「機体に関しては、ジャブローと本部に照会しましたが、登録されてはいない様です。恐らくその少女が軍人でないのは本当でしょう」

 とノインさん。そして彼女はあたしの方に向き直り、

「後で簡単な質疑は受けてもらうとして…身分を証明する物は持っているか?」
「ありませんよ。自分で言うのも何ですが、お手上げ状態ってヤツです」

 身分証明を持ってないのも本当だ。この世界に来るまで家にいたのだから、わざわざ生徒手帳を持ち歩く必要もなかったし。
 あたしが言葉通りに両手を小さく挙げると、皆は「どうしたものか……」と言わんばかりに、困惑の表情を浮かばせるのみだった。







 結局(2回目)、あたしも3人同様ジャブローからの指示で処遇を決められる事となり、しばらくはアーガマに置いてもらう事になった。
 彼らの寛大さにビックリしたけれど、下手に投げ出されるよりはずっといいし、何よりゲームや原作でお馴染みの彼らと一緒にいられるので、あたしは素直に従ったのだった。









「そういえば、結局はなんでアレに乗ってたんだ?」
「え?」

 ブリッジでの会話の後。先刻の准尉さんに艦を案内してもらい終わったとき、タップにそう話しかけられた。

「あー…」あたしは頬を掻きながら唸る。
「それなりの建物の中にいたんだけど、なんか爆発だかなんだかで揺れてね。避難のためにヴァイサーガのコクピットに入ったら、うっかりヘンなボタン押しちゃってね。それで」
「随分アバウトな説明だな」
「そーは言うがなケーンさん。あの時は精神的にアップアップだったから、詳しいことは覚えてないんだよ。ま、いきさつはどうあれ、人生明るく楽しく前向きになんなきゃってね。あんまり悪い方向に考えてると、ホントに悪くなっちゃうし?」
「お前、ホントに前向きだなぁ」
「ま、ね。じゃなきゃやっていけないって」

 やや呆れに似た口調で、だが笑顔でケーンが返すので、あたしはにぃっと笑顔で応えた。
 そんな調子で通路を移動し、しばらくして分かれ道にさしかかる。

「あ、じゃああたしは医務室に行くからこっちで」
「おう、じゃあまたな」

 そうして、あたしは彼らと別れ、一人通路を歩き出す。

「…………なーんて。やっぱちょっちキツいかな」

 ケーン達の姿が見えなくなったのを確認してから、一人ポツリと呟いた。


 本当はものすごく不安だよ。



 いくら大好きなスパロボ世界に来たとは言え、身内も友達もいない世界にたった一人だもの。




 けどね。



 いくら暗くなったって帰れる訳じゃないし、何よりあたしから元気をとったら何も残らないから。



 無理にでも自分を奮い起こし続けないと、泣いてしまいそうになるから。






 だから前向きに頑張るしかないんだ。


 あたしには、それしかできないから…。




















「……どうしよう…」

 柄にもなく真面目に考えてたら、見事に道に迷いました。
 だって似たような通路ばっかなんだもん! しかもドアに表記も何も見当たらないし、分かるかかッ!! いや、先刻案内されたばっかだけどさぁ……。あたしって実は方向オンチだったのかしら…。

「はあぁぁぁぁ……」

 方向オンチな自分が情けなくて、思わず盛大な溜め息が口から出る。すると、タイミングよく背後から声をかけられた。

「やけに溜め息が大きいけど、どうしたんだ?」
「! アムロさん………いや、実は医務室に行こうとしてたら迷子になっちゃって…」

 流石に気恥ずかしいものがあったが、渇いた笑いを浮かべて正直に言う。

「あれ? でも、先刻あの3人と一緒に案内されてなかったかい?」
「…そうなんですけどね…似たような通路が続くから…その………忘れちゃって…」

 言ってく内に語尾が小さくなっていくのと、顔が赤くなっていくのが自覚できた。

 は…恥ずかしいぃぃッ! 案内されたのに迷子になるって…一体何歳だよあたし! 今更なツッコミだけどっ!
 つか、あたし初っ端からこの人に恥見せまくりじゃんッ!! 穴があったら入りたいッ! 墓穴でも落とし穴でもいいから!

 恥ずかしさのあまり顔を手で隠すと、アムロさんは、まるであたしを落ち着かせる様に頭上を優しく撫でた。

「まぁまぁ、そんなに恥ずかしがらなくてもいいさ。俺もホワイトベースに乗りたての頃はそんな事があったよ」
「えぇっ、そうなんですか!?」

 意外な事実に恥ずかしさを一瞬忘れ、即座に顔を上げる。い…意外すぎる…。アニメとか見ると、そんな感じしなかったもん。

「だから」

 茫然とし続けるあたしに、アムロさんは優しい瞳で笑いながら、

「不慣れな事も多いかもしれないけど、遠慮なく頼ってくれていいんだよ」
「……ありがとうございます!」

 自分でも現金だと思うけど、そんな優しい言葉をかけてもらえて、あたしは元気よくお礼の言葉を言った。
 その後、あたしはアムロさんから色々話を聞きつつ、医務室まで案内してもらったのだった。




 前略、お父さんお母さん、それに。あたしはたった今、人情が身にしみて感動しています。


 訳も判らず、いきなり異世界にやってきたけど、なんとかやっていけそうな気がします。


 これから先の事は全然判らないけれど、 、この世界で元気いっぱい頑張りますっ!
 ファイト、オーッ!!

→To be continue…



A連載1話の後半デモ+オリジナル展開です。
携帯サイトでは夢主をなんちゃって記憶喪失者にしてたのですが、今回はあえてそういった描写をなくしました。その分不審者レベルがアップしましたが。
夢主が徐々に仲間と打ち解ける…みたいな展開にしたかったのですが、上手く書けず断念しました(そんなんばっか)
次回こそ本編の2話に入ります…!

2007.08.15 柾希