ヴァイサーガの武装である剣を取り出し、襲いくる敵のレーザーソードを受け流す。

『何っ!?』
「そんな攻撃、あたしに通用しないよ!」

 そのまま敵機の右腕を斬り落とし、それとの距離を離す。

『逃がさんぞ、ケーン=ワカバ!』

 ゲッ! ギガノスの蒼き鷹が部下3人連れてやってきちゃった!
 しかも名指しだし。ケーンったら、何やらかしたの?

「へへ、フられた腹いせかい? みっともないぜ!」
「遅い遅い! アイダボはとっくの昔に逃げちまったぜ!」

 ちょっと、ケーンにタップ! 余裕があるのか知らんけど、そーいう挑発は状況を考えて言ってちょうだいよ!

『ならば、お前達だけでも構わん!』

 ああもう! あっちもすっかりやる気になっちゃったし! もうちょっとクールになってよ!




無鉄砲の代償
〜気づかなかった、当たり前の事実〜





 ――戦況は、ギガノスに分があった。
 接近戦仕様のD―1とヴァイサーガが前線で、長距離射程のD―2が後方から大砲で狙い撃つ。そして、D―3はD―1とD―2の攻撃支援を、メタスは傷ついた機体の応急処置を行っていた。
 そうしてなんとか戦ってはいるものの、このまま消耗戦になだれ込んだら、かなりマズい展開だ。
 比較的装甲の厚いヴァイサーガだったらまだ持ち堪えられるかもしれないが、D兵器とメタスはそうもいかないだろう。それでなくとも、こちらには補給の手段がないのだ。

 早くこっから逃げなきゃ、と突破口を探しているその時、レーダーに反応がが浮かび上がった。

「お! ブライトさん達が来てくれたぜ」
「これで一安心かな…」

 と、味方が現れた事で安堵するタップとライト。しかし……

「お前達…!」

 無断出撃をしたあたし達にノインさんはかなりご立腹らしく、その声には怒気が籠っていた。
 はっきり言って怖っ! 全然一安心じゃないよ!

「こんな事なら、まだギガノスを相手にしてた方が精神的に良かったかも……」

 と、思わず小声で呟いてしまうのは仕方ない事だと思う。そんな中、ファさんがアーガマに通信を開いて、ブライトさんに呼び掛けた。

「ファ!? ファ=ユイリィ、君もいるのか!?」と驚くアムロさん。
「はい。それと、難民の中にはセイラさんもいました!」
「セイラが!? …判った、とにかくこの場の敵を殲滅する、各員攻撃開始!」

 というブライトさんの力強い号令で、ガンダムとトーラスも発進し、敵陣へと突っ込んでいった。
 …っと、呑気に中継してる場合じゃないか。

『新型め、墜ちろ!』
「そんな攻撃、当たらないよっ! けど、お返しはキッチリさせてもらうよ!」

 敵メタルアーマーの放ったレールガンを避け、腕から取り出した烈火刃(ヴァイサーガの武装の一つで、投げナイフのようなもの)を思い切り投げつける。刃はそのまま機体を捉え、右翼部を貫いた。
 うっし、あと一撃! と、その時。

『カール、援護に入るぞ!』
「えっ、ちょっ…待った! せめて体勢を整えさせ……」
『問答無用!』
「うわわわわ!?」

 こっちの言葉もお構いなしに、ホントに問答無用でミサイル撃ちやがった!
 こちらは烈火刃を放った状態から体勢が完全に整っていない。だが、援護の機体が放ったミサイルは容赦なく襲ってくる。
 今から避けても間に合わない…っ! なら、せめてダメージを減らさなきゃ!
 あたしは盾代わりにヴァイサーガのマントで機体を包み、衝撃に備える為に歯を食いしばった。



、ここは俺に任せろ!」


 ───え?


 刹那、ヴァイサーガの正面にD―3が、庇うようにそこに現れた。

 ……って、D兵器で一番打たれ弱そうなD―3じゃ、逆に危ないじゃんっ!

「ライト! D―3じゃ無茶だよ!」
「心配なさんな。まぁ見てなって」

 あたしの言葉を軽く流すライトは決して退こうとせずに、そのままミサイルを迎える。
 すると、D―3に直撃する寸前でミサイルが機体を避けるように飛散し、あたしは目を大きく開いた。
 い…一体、何が起こったの。…ミサイルが勝手に避けた……?
 と、目の前で起きた光景に呆気にとられてると。

「どうしたんだ、黙り込んで。ひょっとして惚れました?」
「ち、違うよ! ちょっとビックリしただけだよ!」
「 あら残念。……というのは冗談で、いつまでもそこにいない方がいいぜ」
「あ……う、うん。ありがと!」

 言われてハッとする。確かにこのまま突っ立ってたら、いい的になるだけだ。先刻の事は後で聞こう。……ついでにからかわれた分を仕返ししよう。
 あたしはすぐに機体の体勢を立て直し、剣を抜き、構える。

「いくよ……! 地斬疾空刀!」

 刀に機体のエネルギーを込め、それを思いきり振り上げて、敵に向かって一気に放つ。
 敵は衝撃波を寸前で機体を翻して回避する。だが、それは予測のうちっ!

『──なっ!?』
「遅い!!」

 敵が気付いた時には、あたしは既に得意の間合いに詰めており、そのまま剣を走らせる。

「これで……どうだぁっ!」

 走らせた刃はそのまま機体を捉え、左腕と左翼部を斬り捨てた。

『止むを得ん、撤退する!』

 これ以上の戦闘は無理と判断したのか、敵はそう言い残し、ここから離脱した。
 よ……よかった…。なんとかなった……。
 ホッと胸を撫でおろし、あたしは額の汗を服の袖で大雑把に拭う。その汗はコクピットに籠る熱から来るのか、先程の戦闘の緊張から来るのかは分からなかった。


 その後、なんとか蒼き鷹らの追撃を振り切り、アーガマとアイダボは無事にギガノス基地の宙域から脱せられた。


 これでめでたしめでたし――とは、いかなかった。


 ビシィッ!

「痛えっ!」

 ブライトさんの修正ビンタがケーンの頬に命中し、アーガマのブリッジに小気味いい音が響く。

「トホホ、なんで俺達がこんな目に…」
「お〜痛…腫れるぜ、こりゃ」

 ケーン同様に叩かれ、頬を押さえてぼやくのはタップとライト。……もちろん、あたしもキッチリ修正を受けた。今もまだ頬がジンジンする。

「くそっ、納得いかねえ! いいじゃねえかよ! 皆を助けて、ギガノスの基地にもダメージを与えて、どこが悪いんだよ!」
「それで殴られるのは納得いかないぜ!」

 自分が殴られた事に納得がいかず、ブライトさんに食ってかかるケーンとタップ。すると、ブライトさんの眉間に寄っていたシワが一層深くなった。

「殴って何故悪いか! あれだけ勝手な行動をしておいて、よくそんな事が言える!」
「けど、俺達は手柄を立てたんですよ!? それが……」
「…その態度がいけないのが、何故分からん?」
「え?」

 なおも異議を唱えるライトに、ノインさんが静かな口調で彼の言葉を遮った。

「…いいか。結果さえ出せば、その過程での命令違反は帳消しになる…そんな事を認めたらどうなる?」
「! 皆、段々好き勝手に動いて、軍がメチャクチャになる……?」

 ブライトさんのその台詞に、あたしはハッとして答えた。続けてノインさんが口を開く。

「そう、兵士は皆成果を求め、先走る様になるのさ。そんな事を認めていては、規律が乱れるだけだ」
「…………」

 言葉が、でなかった。
 ここは戦場で、たった1人の勝手な行動で隊が全滅する事もありうるのだ。
 あたしにとって、この世界は元々はゲームの世界だった。しかし今は『現実として』この世界があり、今起きている戦争は決してゲームではないのだ。

「…ケーン=ワカバ、タップ=オセアノ、ライト=ニューマン、 。しばらく営倉に入れ…分かったな?」
「はい…」

 ブライトさんから下された処罰に、あたし達は小さく頷いた。

「修正の後に営倉行きか。何年もすれば、その内笑い話になるさ」
「アムロの場合は脱走だったがな」
「……それを言わないでくれ」

 ブライトさんの静かなツッコミに、アムロさんはただ苦笑するのみだった。








「ごめんなさい、あたし達の為に」
「いいのいいの、リンダのせいじゃないって」

 4人揃って営倉に向かう途中、アイダボからこちらに来たらしいリンダちゃんが、目を伏せながら言った。
 しかしケーンは気にした素振りも見せず、笑顔で手を振って答えた。

「それにしても、ムカつくのはあの女ったらしだ。リンダに馴々しくしやがって」
「ケーン…彼は…」
「彼なんて言うな! あんなの、最低男で十分だ!」

 ……『女ったらし』って、ひょっとしてマイヨ=プラートのこと? そんな人には思えないけどな…。いや、声と口調しか分からないから、何とも言えないけど。
 ていうかホント何があったんですか、ケーンさん。いくらなんでも毛嫌いしすぎじゃないですか。
 そう、密かに疑問を抱くあたしを余所に、リンダちゃんはひどく言い辛そうに、ぽつりと言葉を洩らした。

「…彼はあたしの……兄、なの…」
「だから兄じゃなくて……あに?」
「そう、父もあたしも捨てて……ギガノスに生きる事を選んだ…兄…」

 そこで言葉が切られ、一気にこの場の空気が固まった。



 ………。





 ………えーっと……。





「………お兄さん、なの?」

 やっと我に返ったらしいケーンが、彼女の兄発言を確認するように、ゆっくりとした口調で訊ねる。対して、申し訳なさそうにコクリと頷くリンダちゃん。
 ……兄と妹の対立、かぁ…。
 ここまでパターンが続くと、もはやツッコミを入れてもしかたない気がしてきた。これでもし、マイヨ=プラートが仮面なんぞを被ってたら、ベタドラマ並にベタすぎる。

「避難民の中に妹を見つけ、思わず声をかけた兄…。ケーン、もしかして、お前、おジャマ虫だったんじゃ…」
「う……」

 ライトの手痛いツッコミに、ケーンは言葉に詰まる。だがしかし、

「そんな事はないわ。助けに来てくれて、嬉しかった…」と、女のあたしでもドキリとする笑顔で、リンダちゃんはそう告げたのだった。








「Dチームに通達だ」

 ブリッジに入るなり、ブライトさんが単刀直入に言った。
 営倉に入ってから3、4時間程だろうか。やっと出られたと思えば、すぐまたブリッジに呼び出されたのだ。
 流石の3人も、一日で色々あったのが堪えたのか、グッタリした様子だ。あたしも彼らと同様だった。ブライトさんの言葉に、もはやどうにでもなれ、というような様子でケーンが言う。

「営倉から出られると思ったら…へいへい、なんでしょ?」
「…お前達はD兵器の登録が解除されるまで、臨時法により軍属となる。階級は三等空士だ」
「つまり、正式にロンド=ベル隊のメンバーになってもらう訳だ」と、続けて言うノインさんへ、ケーンが待ったをかけた。
「ちょっ、ちょっと待ってよ! 俺達に一言の断りもなく、そりゃねえよ!」
「お前達しかD兵器を扱えないが故の臨時処置として理解して欲しい。この書類に、必要事項を記入して提出すること」
「…なんてこった」

 ノインさんから事務的に書類を渡され、3人は茫然としてうなだれた。

「あ〜あ…人生なんて、こんな紙切れ一つで決まっちまうもんなんだな」
「小姑さん曰く、これが軍隊というものよ…」

 紙を掲げて嘆くライトに、訳の分からん言葉をかけるタップ。
 まぁ、結婚とか離婚とかも、書類一つで管理されてるよーなもんだからね。いや、スパロボ世界でもそうなのか、いまいち分からないけど。
 などと、まるっきり他人事のように傍観していたら。

「それと、も同じく我が軍に入隊してもらう」
「へえ、あたしも……って、ええっ!!?」
「何をそんなに驚いている」
「いやいやいやっ、驚きますよそりゃ! なんであたしまで!? つーかあたしはD兵器と関係ないでしょう!?」

 まさかの展開に、あたしはブライトさんにすぐ詰め寄った。

「確かに君自身は、D兵器とは直接関係ない。だが、疑う訳じゃないが、君を解放して危険じゃないとは言い切れないんだ」と、言葉を返すアムロさん。
「要は、あたしがスパイじゃないって言い切れないから、監視するってこと?」
「気を悪くするかもしれないが……」

 口を濁しつつ、アムロさんは静かに頷いた。
 まぁ…自分が不審者ってのは、否定はしないけど。あたしがアムロさん達の立場だったとしても、そう思うだろうし。
 …いや、待てよ? 考えようによっちゃあ、その内マジンガーやゲッターといったスーパー系の皆にも会えやすくなるじゃないの。それに今追い出されたとしても、宇宙じゃ行く当てもないし、ここは入った方が得策…かな?
 と、ちょっぴり打算的に考えたあたしは。

「…分かりました。あたしも入隊します」と皆に告げた。
「それじゃ、君もこの書類に記入して提出くれ」
「分かりました。あ、そうそう」

 アムロさんから書類を受け取ってから、あたしはリンダちゃん、ファさん、セイラさんにクルリと顔を向けて言った。

「改めましてこんにちは。 って言います。皆さんもロンド・ベルに?」
「ええ。私はセイラ=マスよ」
「ファ=ユイリィです。先刻は助けてくれてありがとう」
「あ、うん。どういたしまして。それと…あなたはリンダちゃん、だったよね?」
「ええ…リンダ=プラートです。よろしくお願いします」
「こちらこそ。これからよろしくね!」

 そしてあたしはDチームの時と同じように、彼女達と握手を交わした。

「よし、これから本艦は、避難民船アイダボを伴い、地球に降下する!」と、話がついた所で、ブライトさんがそう号令をかける。

 地球かぁ…。早くスーパーロボットに会えるといいなぁ、なんて事を思い、不謹慎ながら内心でワクワクするあたしだった。



→To be continue…



ようやっとA本編の第2話が終了です。ちまちまと直してやっと書き終わりました。
不審者丸出しな夢主がロンド・ベルに入りました。実は(って程でもありませんが)コレはアクセル編の流れに沿ってます。まあ、彼の場合は本当に記憶喪失ですけど。
さて、ロンド・ベルの面々はどの程度夢主人公を怪しんでいるのか…というのは、一人称である以上書けませんが、書ける範囲でちょこちょこっと描写してきたいな、と思いました。
次回からは地球が舞台になります!

2008.03.11 柾希