時は宇宙世紀0XXX年。場所は戦艦アーガマ―――のトレーニングルーム。
ロンド・ベルに三等空士として入隊してからというもの、あたしはケーン、タップ、ライトと共にノインさん、もといノイン教官の下で訓練を受けるようになったのであるが。
「…お前はMSのパイロットに向かないな」
あたしのシミュレーションの結果は、ノインさんのその一言に尽きた。反論などある筈もない。自分でも心底そう思うのだから。
地球降下、2日前
〜アーガマよりお届けします〜
「極端にも程があるぞ。ジェガンは確かに近接戦闘も視野に入れた設計だが、なんでも突撃すればいいものではない」
「はい……」
「ヴァイサーガもMSより頑丈に出来ているとは言え、あんな無茶な戦い方では直ぐに撃墜される」
「ううっ……」
とまあ、このようにノインさんの厳しいお説教に突入しかけたその時、ブライト艦長からMSデッキに来るように、という通信が入った。
「艦長、どうかしましたか?」
「ああ、アストナージからヴァイサーガに関する報告があるそうだ。訓練中で済まないが、を連れて向かってくれ」
「了解しました」
と、ブライト艦長からの通信が切れた所で、ケーンがノイン教官! と、元気よく手を挙げた。
「どうした、ワカバ?」
「俺達も格納庫についてっていいですか?」
するとケーンに続き、ライトとタップも挙手をする。
「俺からもお願いしますよ。ヴァイサーガの設計には俺もすごーく興味ありますし」
「それに、これからチームを組むのに、俺達も何か知ってた方がいいと思って」
ノインさんはそんな3人の様子を順番に見つめた後、ふぅ、と小さく息を吐いた。
「…一理あるな。それならお前達も来い」
「やった!」
許可が下り、一斉にガッツポーズを取るDチーム。
そんな訳で、あたしヒヨッコパイロット達はMSデッキへ向かう事になったのだった。
「これで辛い訓練から開放される!」
…という、非常に小さな呟きが聞こえたが、これは敢えて流すことにしよう。
所変わってMSデッキ。早速話が切り出された訳であるが。
「ヴァイサーガはブラックボックスの塊みたいなもんだな」
というアストナージさんの言葉に、あたしとDチームは首を傾げた。
「つまりだな、解析しても分かった事はほんの僅かだって事だ。分かった範囲で言うが、コイツがスーパーロボットタイプだってのは見ての通りだ。白兵戦に特化していて、機動性が特に秀でている。あとは…そうだな、動力源が随分妙だったな」
動力が妙?
アストナージさんの話に、あたしは更に眉を顰めた。
てっきり、モビルスーツとかOGのパーソナルトルーパーみたいに核融合エンジンだと思ってたけど、どうやら違うようである。
ノインさんも疑問を持ったようで、アストナージさんに続けてくれ、と話を促していた。
「主動力は電力だが、どうやらそれ以外にもパイロットの生体エネルギーが使われるシステムがあるようなんだ。お前さん、前にコイツがある程度思った通りに動いてくれる、って言ってただろ? 多分、それに関係したもんじゃないかね。スーパーロボットらしいっちゃあらしいが」
うん、確かにスーパーロボットっぽい。と、内心で納得するあたし。
「アストナージ。思った通りにというのは?」
「あ、多分それは『ダイレクト・フィートバックシステム』ってヤツの事だと思います」
ノインさんの疑問に対し思い当たる事があったので、今度はあたしが説明を始めた。
「あたしもマニュアルに書いてあった事をちょっと見た程度なんで、あまり詳しくは分からないんですけど…確かパイロットの考えてる事をダイレクトに機体に反映させるっていうシステムです。だから、操縦はまだよく出来ないけど、多少は動かせるんです」
続きをどうぞ、とアストナージさんに話を戻す。
「あと目についたのが、パイロットがドラグナーと同じく登録式に設定されてる所だな。民間で作ったにしては、システムがやけに高度だ」
「では何処か軍の物だと?」
「一概にそう言い切れないが可能性はあるな。パーツの登録番号もご丁寧に消された後があったよ」
しかしなぁ…、とアストナージさんはそこで一旦言葉を切り、こちらに視線を向けた。
いきなり何だろう、と思ったあたしとは裏腹に、ノインさんはその動作に何かを察したようだ。
「ああ、確かにが軍人である可能性は低いだろうな。行動や戦闘パターンを観察していればよく分かる」
「例えば?」
腕を組み、視線をあたしに向けて言うノインさんにタップが尋ねる。
「自分の機体の整備も満足に出来ず、周辺の者に泣き付くようではスパイは出来ん。スパイなら機密保持の為に機体を赤の他人に任せたがらない」
「まるで実際に見てたような物言いだなあ」とケーン。
「…知人にそんな連中がいたからな」ノインさんは苦笑気味にそう言った。
なるほど。確かにWのガンダムパイロットは元テロリストだもんね。うん。納得なんだけどさ、あたし自身の潔白(?)が証明されてるんだろうけど、あまり素直に喜べないんですが。
暗に「こんな間抜けがスパイな訳がない」って言われてるような気がする。
「確かに、この前も『データがまとめられないっ!』とか言って、泣きついてきたっけね」
ちょ、ライト! 言わなくていいでしょ人の恥っ! あの時は必死だったんだから!
「今の段階ではこれぐらいだな。また何か分かったらその都度連絡する」
散々恥を暴露され、一人密かにへこむあたしを余所に、こんな具合にアストナージさんの話はこうして幕を閉じるのであった。
あの後に訓練が再開される事はなく、あたし達4人は各々自由時間を過ごす事になった。
ケーンはオペレーターになったリンダの所へ、タップは艦長に許可をもらって難民船アイダホへ、ライトはD―3のマザー・コンピュータのチェックがしたいという事でMSデッキに残った。
あたしはというと、久々の長い自由時間を持て余してしまい、適当に艦内をブラブラしていた。
……ん? あそこにいるのは…。
外の光景が見える通路(といっても、宇宙だから見えるのは限り無い闇と星屑ぐらいだが)で、物思いにふけている様子のファの姿を見つける。
どうしたんだろ。なんか元気なさそうだけど…。
「やっほー、ファ。隣、いい?」
「…」
とりあえず軽い感じで声をかけ、答えを聞く前に彼女の近くに寄る。
「私が言う前に来てるじゃない」と窘めるような、でも優しい声色でファが言う。
「まあいいじゃん。減るもんでもないでしょ?」
笑ってそう返したら、ファはそれもそうだけど…、なんて困ったように笑った。
「ところでさ、何か悩みでもあるの?」
「え?」
「あー…その、ちょっと元気がなさそうだからさ」と、首を傾げるファに尋ねると。
「…ううん、何でもないわ。最近まで色々あったから少し疲れただけよ」
彼女の表情は、明らかにそれだけの理由とは思えなかったものであったが、あたしはそっか、とだけ言ってそれ以上深く突っ込むのを止めた。
それに、なんとなくカミーユの事なんだろうと予測がついた。
ここ最近の、この世界で起こった出来事についてある程度調べてみて、どうやら既にティターンズとの戦いは終結したようだ。カミーユが原作通りになってしまったかそうでないかはあたしには分からないけれど、それでも今こうして彼の側にいられないファの不安はなんとなくだけど想像がついた。
「あーあ、早く地球に行きたいな」思わず口からそんな言葉が出た。
「地球に行った事はないの?」
「ううん、逆。あたし元々地球で住んでたから、ちょっと恋しくなっちゃって。宇宙の無重力も慣れれば楽しいんだけど。やっぱりずっと地面の上で生活してたからかな」
「それじゃあ、どうして宇宙にいたの?」
ギクッ!
うっかり身の内を話してしまい、当然ながらファから鋭いツッコミを受ける。
ど…どうしよう…。まさか「実は21世紀の日本から来ました、エヘッ」など言える筈もないし、言った所で信じてもらえるかも分からない。
頭の中で色々と嘘を考えてみるけど、なかなか思いつかず唸ってしまう。
「…ゴメン。今はまだちゃんと言えない」
散々考えてから正直にそう言ってみたものの、反応が怖くて俯く。
けれどファはそんなあたしの態度を咎めずに、むしろあまり深くは追求しようとしなかった。
その優しさはとても嬉しかったけど、反対に辛いものがあった。
すべてを話せない、臆病な自分を目の前に曝されたような、そんな感覚になった。
その後も他愛のない話をして、あたしはファと別れた。
「あたしって、意外と寂しがり屋だったのかな」
誰に言うでもなく、この空間に言葉を漏らす。
「一人でも頑張るぞ!」って心に決めたのに、やっぱり一人は怖いんだ。あたしだけがこの世界の人じゃないって事が、それを知られる事で一人にされる事が怖いんだなあ。
スペースノイドだろうが、アースノイドだろうが、異星人だろうが何だろうが、分かり合える人がいるってのはスパロボをやってたからなんとなく理解できる。けれども、実際に自分一人が異邦人って状況になると、分かってても不安が大きくなるんだな、とすら感じる。
信じなきゃ。
アーガマにはあたしを信じてくれる人がいる。だから、あたしもちゃんと信じなきゃ。いつか、ちゃんと皆に話せるように。
アーガマが地球に降りるまで、あと2日。あたしは自分自身に言い聞かせるように、指を絡めて強く願った。
→To be continue…
前回、次から地球が舞台になるとか書きましたが、嘘ついてすみません。
いや、前回の話を書いてしばらくしてから、ヴァイサーガの公式設定をようやく知ったので、ちょっと連載でも補足した方がいいかなあ、なんて思ったので…。
機体の説明に関しては、ゲーム本編のスーパー系・リアル系の台詞を基にそれっぽく表現してみたつもりです。
そのついでに正式にアーガマクルーになった直後の描写も書いてみました。基本的にこのヒロインは機械に関してはまったくのドシロートです。なので今は色んな事に必死です。頑張れヒロイン(ちょう他人事)
それはさておき、次回こそ本編に進めます。やるぞー!
2008.11.13 柾希
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