「るるるるーるるーるるー♪」

こんにちは。青学男子テニス部のマネージャーです。今日は連休の内の1日なのですが、大会も近いこともあってか、練習の為に学校に来ています。今、部員達はグラウンドをランニングしており、あたしは流行りの歌を鼻歌で歌いながらドリンクを運んでいます(勿論、極普通のスポーツドリンクだ)。

先輩、ご機嫌ッスね。何かいい事でもあったんですか?」

 ランニングから戻ってきた一人である後輩の桃――桃城にドリンクを渡すときにそう聞かれ、あたしは素直に頷いた。

「へえ、もしかしてデートですか?」
「まさか。あたしにそんな相手いる訳ないじゃん」
「ああ、それもそうっスよね!」

 うん。そこで迷わず肯定するなよ、桃。しかもめちゃくちゃ悪気ない笑顔で。失礼だろ、あたしに。確かに否定出来ないけどさ。

「そんじゃあ、なんでそんなにご機嫌なのさ?」

 と、会話に加わってきたクラスメイトの菊丸の質問に、あたしはフフン、と自慢げに腰を当てて言った。

「実は今朝、ウチの伯母さんから料理店の招待券をもらったのよね。『ヴァイローズ』って名前なんだけど」
「『ヴァイローズ』か…その歴史は古く、古今東西の料理が一流の食材と一流の料理人達の手によって作り出される――まさに奇跡の料理店」

 と、更に話に食いつき、且つどっから拾った情報か、青学が誇るデータマン乾がうんちくを披露し始めた。ランニングを終えた他の部員達も興味津々のようで、いつの間にかあたし達を囲むように集まって聞いていた。

「その料理を食した者は、どんな味音痴でも涙を流して感動する程に絶品という評判だ。それ故、5年先の予約まで埋まっているという、まさに一流に相応しい超高級レストランだ」
「「「「えええぇぇぇぇぇっっ!!?」」」」

 乾が説明を終えた刹那、大半の部員達の目の色が一斉に変わった。
 ……うわあ。なんだかすごくヤな予感。

先輩っ!」
「絶対ダメ!」

 桃の呼びかけにそう間髪入れずに断るあたし。

「まだ何も言ってないっスよ!」
「どうせ『俺にそのチケット譲ってください!』とか何とか言うんでしょ! 絶対ヤダ!」

 力強くそう言い切ると、桃はグッと言葉を詰まらせる。どうやら図星のようである。 

先輩。先輩なら気前良く後輩に奢ってくれてもいいんじゃないの?」
「おまっ…! 普段先輩を先輩と思ってない態度の癖に、こーいうときだけ先輩扱いすんじゃないわよ、越前!! あんたは「敬意」っつう漢字を百回書きとれ!
「せんぱーい! 俺も美味しい料理が食べたい!」
「誰が先輩か! お前はクラスメイトだろ! てか後ろから引っ付くな重いっ!」

 背後から子泣きじじいよろしく抱きついてきた菊丸を必死で剥がし、部員達から距離を取る。だが部員達――というか、今この場にいない手塚と大石、いるけど良心的な常識人のタカさん以外のレギュラー陣がじりじりと詰め寄ってくる。何気に関心なさそうな不二と海堂まで一緒になってるし。
 さっさと練習に戻れ!! と怒鳴ってみるも、効果はまったくなし。問答無用の招待券争奪戦が繰り広げられるのは時間の問題と思われたが。

「全員、グラウンド15周だ!!」

 戻ってきた手塚により、マネージャーのあたしと傍観に徹していた他の部員達も同様に走らされ、強制的に戦いが一旦打ち切られたのだった。









「なるほどな…。それが原因だったのか」

 グラウンドを走り終え、ようやく一息ついた所で騒ぎの原因を知った大石が、困った顔で溜め息をついた。
 うん。溜め息つきたくなるよね。ごめんね大石。胃の穴広げるような騒ぎを起こして。と、心の中で目一杯謝罪する良心的なあたし。
 そんな時、不二がいつもの笑顔(多分あれはとんでもないことを考えた顔だ)で唐突に口を開いた。

「ねえ、だったらゲームをしない?」
「「「「ゲーム?」」」」

 一斉に首を傾げる一同。

「……って、何のゲームっすか」と、不二以外のメンバー代表して訊ねる越前。
「クスッ…もちろん、誰がチケットを手に入れるかのゲームだよ」
「ちょっ、何勝手に言ってんの!」

 というあたしの言葉を余所に、更に不二は話を続ける。

「ルールは簡単。チケットの所有者であるを捕まえた人の勝ち。が逃げ切ったら、チケットはそのまま彼女のものってのはどう?」
「ちょ、異議アリィィッ!! 明らかにあたし不利だよねソレ!?」

 不二の提案に、あたしはすかさず右手を高らかに上げ、異議という名のツッコミをする。だがしかし。

「OK! その勝負、俺がもらうよん♪」
「この勝負、乗らねえ訳には行かねーな、行かねーよ。マムシ、お前もやるだろ?」
「フン、下らねえ…」
「なんだ。負けるのが怖いのか?」
「なんだとテメエ…!」
「ふーん、面白そうじゃん」

 超ノリノリの菊丸と桃城、あっさりと挑発に乗る海堂、ぶっきらぼうの癖にやる気満々な越前、静かに逆光メガネになってる乾というように、参加の意思を見せる一部レギュラー陣。
 コラコラコラコラ! こんなフツーのマネージャーから何本気でチケット奪おうとしてんだよお前ら!

「もちろんボクも参加するよ。タカさんはどうする?」
「うーん…そうだなぁ…俺も参加しようかな」

 えっ、タカさんまで参加するのっ!? ちょ、青学レギュラーの良心でしょアンタ! そこはむしろ止めようよ!
 と、心底思った所で、ある事に気付いた。
 そういや先刻から黙りっ放しな部長の手塚がいるじゃない! 手塚にこんなアホな事止めさせりゃ済むじゃん!
 ポンっと両手を叩いて手塚に目をやり、「よっし言うぞ!」と、口を開きかけたその時だった。

「それでは今日の練習後、参加希望者で行うことにする!」
いやっほーぅ! 何コレイジメ!?

 手塚のよく通る声がコート内に響き、一部レギュラー陣のテンションが上がる中、あたしは力いっぱいそう叫んだ。

「何をそんなに怒る必要がある? 部員のモチベーションがこれ程までに上がっているんだぞ?」と、腹立つぐらいに真顔の手塚。
「むしろなんであんたがそんなに冷静なのか聞きたいよ! 部員の暴走を止めろよ部長!
ていうかあたしはあくまでフツーだから! あんたら相手じゃ、速攻で捕まるに決まってんでしょーがッ!」

 そう! このレギュラー陣と身体能力ときたら、『あれ? こいつらホントに中学生?』というレベルの高さなのだ!
 マネージャーになった頃にテニス部員のスポーツテストの結果を見た時は思わずその場で「マジで!?」と叫んだものである。
 一方のあたしはどれもこれも平均的。辛うじて50m走が平均よりちょっと上だが、越前の記録に比べたら『まだまだだね』というレベルだ。そんな彼らと鬼ごっこなど、はっきり言ってイジメ以外の何物でもない。それならまだ全教科の抜き打ちテストの方がマシである。

 他の部員達もそれを理解しているのか、あたしに同情的な視線を向けるが、助け船を出そうとする勇者はいなかった(暴走したレギュラー陣に口を挟めば、自分にも害が及び兼ねないからだ)。
 手塚は尚も表情を崩さぬまま、あたしの両肩を叩いて言った。

、お前なら出来る!」
「いやそんな根拠ない保証されても! つか無理だから! そんな激励いらないからね!?」
「それじゃあ、練習に戻ろうか、皆」
「だから人の話を聞いてっ! つか当事者差し置いて話を進めるなぁぁぁぁぁッ!」

 あぁぁぁあもうやだ! 不二のあの爽やか笑顔が逆に腹立つ! 神様! あたしが一体何をしたってのよ!

 そんなあたしの必死の叫びが届く訳もなく、話はトントン拍子に進み、いよいよ放課後となり、チケット争奪戦が繰り広げられる事となったのだった。



―To be countinued―



レギュラーを皆出そうとしたら、いつもより微妙に長くなってしまいました。テニプリキャラはどんどん動いてくれるので、逆に収集がつかなくなります。うーん。難しい。
ちなみに作中のレストランの名前はスパロボ64に出てくるスーパー系男主人公のライバルが乗るロボットからです。
さてさて、お題夢ですがもう少しだけ続きます。

2008.07.09 柾希